母からの忠告

ティラミス 家族
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  あれから母の体調がどうなったかの様子見で、実家へ行こうと電話したら、その日は午前中に病院へ行く予定だから外で会おうと言われ、病院最寄り駅で待ち合わせた。
遠目からでも、真っ白な髪なのですぐに分かる。そして、外で会う度、母が一回り小さくなっているのを感じる。

「お昼、どこで食べる?」

 お腹は空いてないが、母は検査で朝食も抜いて来たというので付き合うことに。
勿論、私のおごりなのだけれど、正直いって今月は出費が多くて虎の子も心もとない。
なのでファミレスで勘弁して欲しいのでそう伝えると、案外すんなり受け入れてくれた。

「こないだね、お寿司食べたばっかりなの。私、あまりお腹空いてないからそれでいいわよ。」

 弟がバイト代で奢ってくれたと言う。まだ仕事はちゃんと決まっていないようで、単発なのか隙間バイトなのか分からないけれど、母が言うには「ちゃんと仕事をしている」らしい。

ファミレスで、母はドリンクバー付きのランチを頼んだ。私は一番安い日替わりランチを頼むと、

「あんた、イカフライ嫌いじゃなかった?安いからって好きじゃないもの頼むのやめなさいよ。」

 痛いところをつかれたが、イカフライは好きになったと嘘を付いた。
母に飲みたいものを聞いて、ドリンクバーを持って戻る。

「ファミレスの、自分でいちいち飲み物取りに行くのが嫌なのよね。それにグラスもなんだか汚いし。やっぱり苦手。」

 いちいち文句が多く、疲れる。
笑顔でスルーしつつ、席についてようやく一息。体調を聞く。

「良くはならないわね。私もお父さんも。なんとか毎日、生き延びているって感じよ。N恵も心配してくれてね、この間、姉さんから私の体調が悪かったことを聞いて、わざわざうちまでお見舞いに来てくれたのよ。引っ越してから初めて来てくれてね。あの子も色々家のことに仕事に大変そうね。」


 N恵は、伯母抜きでも母と連絡を取るくらいに昔から仲良しなのだ。私の前では「叔母さん」と呼ぶが、2人の時には母を名前のちゃん付けで呼ぶ。会話もため口。そういうところが、私とは性質が全然違うし、同じ血が通っているとは思えない。対し、私は子どもの頃から伯母さんは伯母さんだし、話す時は敬語だ。
母は、娘の私と違い、オープンで可愛げのある人懐っこいN恵を昔から可愛がっているのだ。賢くて華があり、これが娘だったらと内心思うこともあっただろう。だから事あるごとに私と比較して来たし、その親である伯母のことを羨ましがっていたのだ。


 「あんた、随分お金に困っているようだけど、仕事はどうなってるの?」

 ファミレスでランチということで、私の懐事情が気になったようだ。
隠していても仕方がないので、ありのままを話した。パートのシフトが少ないこと(だがそれは子の受験で自らそうしたと嘘をついた)、塾の費用や大学費用の準備、それに昨今の物価高の影響。

「カズヒロさん、仕事はどうなの?うまくいってないの?」

 探るような目。母は年を取っても、鋭いところがあり、特に相手が触れられたくない部分を探し当てる才能に長けており、それをズバッと射貫くのだ。


「うん・・まぁ、ぼちぼち。」

「まさか、借金とかしてないわよね?」

「それはー、少しは銀行から融資受けてるけど、お義父さんがだいぶ工面してくれてて。」

「はぁ!?なにそれ。親から借りてるの?あんたそれで平気なの?ちょっと待って、あんた引きこもりのお姉さんの面倒見る覚悟あるの?」

「いや、そんなのないよ。」

「甘いわよ!あちらさんも金にものを言わせるってわけね。あんたの老後は大変になるわよ、あっちの両親とお姉さんにコキ使われて、その手付金を受け取ったってことだからね。よく考えた方がいいわよ。自分の得になるように。」


 娘へのアドバイスなのか、ちょっと良く分からないけれど、薄っすら私自身も思っていたところと重なる部分があったので何も言い返せなかった。


「そうそう、N恵、株でだいぶ儲けてるみたいね。仕事も上の子の受験が終わったら再開するみたいよ。あんたもN恵みたいに職を持って、自立すればそんな目に合わずに済んだのに。」


 大きなため息をつきながら、すっかりランチのカキフライを平らげた後、デザートのティラミスを口に運ぶ母は、先日まで倒れていたとは思えないくらいに口が達者で良く食べる。なんだかこちらの生気を吸い取られたような、そんな日だった。





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