新しく出来た美容院に行ったが失敗した。
本当は、以前親子でカットして貰った女性スタイリストにお願いしたかったのだけれど、何せ高い。
カットとカラーで2万円は掛かる。あそこは特別な時。今度は子の卒業式前に行こうと思っている。
出来たばかりのこの店は、職場近くなので誰かにバッタリと言うこともなさそうだし、初回が安い。
美容院は苦手だけれど、一度目は割と平気。二度目ましての距離感が辛いのだ。
会話も続かないし、何となく良い客を演じなくてはとプレッシャーを感じてしまう。
初回は割と向こうも気を遣ってくれるし、沈黙が続いても初めてだから仕方がないーと思われるような気がするのだ。
「今日はどうします?」
「丸みのあるボブにしたいのですが・・」
年を取り、どうも髪の痛みが酷く、しかも白髪交じりなのでセミロングもきつくなってきた。
一番無難なボブが良いのでここ最近はずっとボブ。
前回カットしてから3か月が過ぎ、だいぶもっさりして見苦しくなっていた。
「分かりました、この辺がちょっと厚みがあるのですっきりさせますか?」
プロのアドバイスなので従うことにした。
写真も見せたし、私的には逃げるが恥ーのガッキーのようなヘアスタイルを希望していた。
タブレットの雑誌を見ていれば、話し掛けられることも無い。
沈黙は続くけれど、大丈夫。
顔周りでザクザクと小気味良い音。
昨夜、あまり寝ていなかったこともあり、ウトウトしてしまう。
ハッと意識を失いかけて鏡の中の自分を見て驚く。
ーえ?短過ぎやしない?
正面から見たら、ボブというかショートカット。
ガッキーとは縁遠い。
だが今更やめてとも言えず、されるがまま。
前髪のカットに入り、せめて前髪は長いままと口をパクパクさせる。
「すみません、前髪はそのままでいいです。」
これでオンザ眉毛になったら最悪。
ーボブって言ったよね?聞いてた?
白髪染めをし、いつもは気持ち良いシャンプーも、髪型が気になって落ち着かなかった。
シャンプーが終わり、濡れた髪の自分を見て更に落ち込む。
ぺったりと顔周りを覆う髪は貧相で、男だか女だか分からない、そんな感じ。
地味顔でメイクも濃くない私なので、余計にそう思う。
見習いのスタイリストがドライヤーをし終え、整えた後、
「だいぶ思い切りましたね!」
笑顔でそう言われた時、あぁやっぱりそうなのかーと落ち込んだ。
誰が見ても、思い切ったショートなのだ。
担当美容師が戻り、合わせ鏡で後頭部が見えるようにしてくれた。
前から見るより更に、短い。
ぱっと浮かんだのが、宝塚の男役。
もみあげも出てるし、後ろも若干刈り上げ状態。
「すっきりしましたね。」
客の満足を疑わない美容師の前で、ぎくしゃくとした笑みしか出ない。
まったくそう思っていないのに、
「さっぱりしました。ありがとうございます。」
そう答えた。
カットとカラーで7000円。都内だと安い。二度目でカラーだけしに行ったとしてもこれくらいなのでそう思えば割り切れるだろうか。
いや、まったく割り切れない。
家族からも酷評。
最悪だ。
「ママ、どうした!?」
「なんだそれ、男みたいだな。」
次の出勤日が憂鬱だ。
一か月、誰とも会いたくない心境に陥っている。