この職場に勤めて早いもので一年。
この先辞めても、履歴書に堂々と記入出来るようになったことが嬉しい。
相変わらず、他パートの2人に比べると仕事は出来ないし、雑用ばかり。
コピー取りだけの日もあれば、常に何かやることはないかとお伺いを立てることについてはいまだ慣れないし居心地が悪い。
今、私がここにいても良いのだーと思える時は、花山さんか黒川さんが有給を取り、交代を頼まれた時だ。
そういう時は、やるべきことがきちんとあるし、自分の存在が肯定されている気がする。
しかし、そんな風に思っていた自分がいかに甘かったか、思い知らされる出来事が起きた。
美容休暇明けの花山さんと会うのは久しぶり。
いまだマスク姿の彼女に違和感をおぼえつつ、だが向こうから何事もなかったかのように話し掛けてくれた。どこに視線をやったら良いか、なぜか、私の方が緊張してしまう。
「おはよう、久しぶり。」
「おはよう。」
「シフト、替わってくれてありがとう。助かった~」
私もその分稼げたので助かった。
「ねえ、ボーナス少な過ぎだよね?もうびっくりしたよ~1万円ってさ、寸志だよね。せめて5万は欲しかったな。」
「え?」
ボーナス?なんの話?私、貰ってないー声にならず、唖然とする中、米田さんに話し掛けられた花山さんはそのまま彼女の方に顔を向け、会話は尻切れトンボとなった。
仕事中、いつものように大量の紙データーをPDFスキャン化したり、届いた文具やコピー用紙をフロアに数台ある複合機にセットしたり、そういった雑用をしながらもずっとボーナスについて考えていた。
花山さんはいつ貰ったのだろう?きっと先週のいつかなのだろうけれど、ならば今日貰えるのか?
そわそわしつつ、上司から明細が渡されるのを待つ。
だが一向に、私を呼ぶ気配は見られない。
黒川さんとトイレで鉢合わせし、手洗いをしながら何気なく聞いてみた。
「ボーナスって、貰いました?」
「あぁ、はい。先週に。」
鏡越しに、不思議そうな黒川さんの表情。
まさか私だけが貰っていないとは思っていないのだろう、彼女も花山さんと同等のことを言う。
「っていってもほんとに寸志ですよねー。一回飲んだら終わり、ですね。」
あはは・・と同感!といった感じで笑い返すが、きっと引き攣り笑顔だっただろう。
そして、勤務が終わり、昼になって上司が私を呼ぶのではないかと思い、ノロノロと帰り支度をしていたが、上司は部下らを引き連れて蕎麦屋へ行ってしまった。
ぐるぐるぐると胃の中が気持ち悪い。
ボーナス、私は貰えない?
それとも、忘れられている??
一万だって、貰えるものなら貰いたい。
でも、自ら聞くだけの勇気はない。
私の評価がゼロだから、出ないのだと知るのも怖い。
そもそも、花山さんがボーナスの話なんてして来なければ、知らなければ、モヤモヤせずに済んだのに。
この際、3000円でもいいから寸志が欲しい。
そんな風に思う私は強欲か?もっと、会社に貢献してから言うことか?
ヒイヒイ汗水垂らしてポスティングする3時間分でも貰えたら、この気持ちも落ち着くのに。