花山さんの、米田さんに対しての悪口が日に日にヒートアップしている。
最近では、課長まで巻き込んでいるものだから、見ていてハラハラする。
と、同時に、その気の強さが羨ましい。きっと、自分に自信があるのだと思う。
「課長〜。ちょっといいですかぁ。先週、米田さんからの指示でA社にメール送ったんですけど、さっき電話が掛かって来て、私もチェックした時におかしいなって思ってメールの前に確認したんですけど大丈夫って言われて。一応、A社には謝っておきましたけど。」
「おー。やっちゃったね。本当だ、参ったな。」
「私、何度も聞いたんですよ。これおかしくないですか?って。でも、大丈夫だから!って怒られて。もう聞けませんでしたよ、パートだし。」
「花山さんはそれでいいんだよ。あいつ、ちょっと突っ走るとこあるからな。それにしても、こういうことがまたあったら私に報告して下さい。気にすることないから。」
「ありがとうございます~」
課長の目尻は下がっている。花山さんは思い切り課長に愛想を振りまき、しまいにはまたボディタッチ。
「やっだ~、課長!おっかしい~」
打ち合わせ中の米田さんが見たら、苛つくだろう。
そしてデスクに戻り、私に耳打ち。
「マジ、ちゃんと仕事しろって思うよね!なんでアイツの尻ぬぐいしなきゃなんないのよ。」
打ち合わせから戻って来た米田さんは、課長に叱られ肩を落とす。だがそれでおしまい。そういうところも花山さんは虫が好かないようだった。
「普通、謝らない?だって、私が代わりにA社に謝ったんだよ。お手数おかけしましたくらい言うよね?パートだからって下に見てるのかな?なんなの!?」
苛々している彼女を横目に、愛想笑いをしていたら米田さんから声が掛かった。
彼女から頼まれた仕事のことで、またミスがあったようでお怒りモード。
頭を下げまくって、デスクに戻る。
「お疲れー。完全に八つ当たりだよね。自分だってミスってるじゃん、謝りもしないし。完璧な人に言われるぶんなら仕方ないって思えるけど、そうじゃない人間に言われてもね。笑う~」
米田さんと仲の良い黒田さんもいるのに、平然と悪口。
もしかしたら筒抜けになるかもしれないのに、すごい人だ。
だが、私はハラハラしつつも彼女の悪態にどこか清々しさをおぼえた。
散々叱られ、自己肯定感だだ下がりの中で、彼女が代わって米田さんに暴言を吐いてくれることが救いにもなっていた。
ずるいかもしれないけど。
「これ、どうぞ。」
一緒に悪口は言えないけど、すっきりしたお礼にデスクの引き出しに入れている個包装のグミをあげた。
「わーい、グミ大好き。ありがと。」
仕事は出来ないし、怒られてばかりで嫌になるけど。
私の鬱憤は、同期のお陰で晴れるのだった。