無事、ピアノを退会した。
実質的には夏休み中に既にレッスンを休む日が続いていたのだけれど。
月謝は先月分でおしまい。
一応、最後のレッスンは子と共に挨拶へ行った。
そこでまた嫌な気分を味わった。
きっと、子も同じくだろう。
「どこ受けるの?今は受験も色々やり方があるみたいで大変ね。でも推薦なら一般よりも楽でしょう?去年、Aちゃんはプレッシャーに弱いからって推薦で年内に中央の法学部に決めたけど、一般で受けたら慶応受かってたかもって後々後悔してたみたい。花子ちゃんは大丈夫?推薦ってことはやっぱりレベル落としてマーチあたり?」
残念ながら、我が子はAちゃんレベルの能力ではないこと、きっと講師は分かってて言っているのだろうと思う。だって子はそこまで偏差値が高い都立高校でもないし、そのAちゃんとやらは偏差値70越えの付属高校に通っているのだ。それに、中途半端な知識であれこれ詮索してくるのもウザイ。指定校と総合型推薦の違いすら分かっていないのだ。この講師は本当に、人を嫌な気分にさせる天才だ。しかも、個人情報を他人にばらまくから困ったもの。
しつこく子の情報を引き出そうとするので、もう最後だしとお礼の品を突き付けた。
「長い間ありがとうございました。これ、詰まらないものですがどうぞ。先生の好きなものが分からないので好きなものを買って下さい。」
お世話になりましたのお礼に、現金。菓子折りやお茶、ワイン、花束等・・それに商品券と色々迷って、だがもう面倒になってそうした。嫌いな人間に無駄な労力ー(建前だけのお礼なのにいちいち買いに店に出向いたりするなんて時間の無駄)ーを使うのもうんざりだ。芸事の世界で現金はタブーとされるけれど、個人をラベルでしか図れない人間なんだから、物よりお金の方が喜ぶだろう。失礼だと思ってくれていい。
なのに、心の底から嬉しそうな顔で、
「え?いやー、そんなお気遣いいただいて。でも、ありがとうございます。正直、生徒さん達から色々頂くんですけどね、口に合わないこともあって。申し訳ないと思いながらもご近所に配ったりだったから。ありがたく好きなものを買わせていただきますね。」
手切れ金に5000円。
化けの皮を剥がせば、銭ゲバだ。どんなに取り繕って芸術家ぶっていても、人間的にまったく尊敬出来ない。こんな講師の元で毎月月謝を支払いピアノを習わせていたことを心底後悔。
「あー、すっきりした。」
最後のレッスンの帰り道、心底、清々しい顔で子が呟いた。
個人レッスンだったし、もしかしたら私が知らないところで色々と嫌な思いを味わって来たのかもしれない。
「遊びに来てねって言ってたね。」
「行くわけないじゃん。」
「あはは。」
親子でちょっとした人の悪口。
良くないことかもしれないが、スカッとした。