ここじゃない

どんぐり 仕事
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 ここじゃない症候群。
私に合わない職場。仕事内容も、求められている水準に達していない。
人間的にも、嫌われている。
居心地が悪い。

持ち帰り、努力はしたけれどダメだった。
数字が苦手。
論理的思考がまったく欠如している。
すぐにパニックに陥る。
マルチタスク不得手。

 黒川さんから教わった通りにしても、私の理解力の無さなのだろう、思うような数字が出ない。
それでも提出しなくてはーと焦り、自己流で計算をし、見た目だけ完成させた。
中身は恐らくぐちゃぐちゃ。

「やってみましたが、自信ありません。ご確認、お願いします。」

 木佐貫さんが、私から受け取った書類を険しい顔で見ている。少しして、それを米田さんに持って行った。首を傾げる姿がちらっと見えた。嫌な笑い声が聞こえた。もうそっちの方を見ることは出来ず、雑用に集中する。やれやれといった風に、木佐貫さんがこちらに戻って来た。

「全部、違ってました。前回の分、見ました?」

 見たし、黒川さんに聞いたし、家に持ち帰って考えてもみた。
だがそれをそのまま伝えることはNGな気がして、ただ静かに頷くことしか出来なかった。


「見てやって下さいって言いましたよね?適当に計算されても困ります。」

 この人は、まさか私がここまで理解力がないと思っていないのだろう。適当にさぼっていると勘違いされている。そうじゃないー、本当に分からないのだ。情けないことに時間を掛けても。


「なんでこうなるんですか?どうやりました?」

 私なりに、手順を説明した。だがすぐに話を遮られた。


「え・・なんでそうなるの?」


  やべえ奴ーといった感じで私の顔を見た。
そして、半笑いというか馬鹿にした風に鼻で笑い、

「えっと・・じゃあこれはもう私がやるんでいいです。」

 もうこれ以上関わるのも面倒だと言わんばかりに、自分の席に戻って行った。
残された私は、いつもの簡単なルーティン作業を終え、突発的な作業を振られることもなく、昼までに仕上げなくてはならなかったその作業も木佐貫さんが持って行ってしまったことで、やることが無くなってしまった。

 こういう時に限って、シュレッダーをする紙もないし、裏紙をメモ用紙にしようと思ったけれどそもそも裏紙もない。
ひたすらスキャンの作業も今週頭に終えてしまい、何かやることありますか?なんてこの状況で木佐貫さんに聞けないし、まして米田さんにも。

仕方なく、黒川さんに声を掛けた。

「あー、じゃあ・・この発送作業、お願いします。」

 宛名シールを作成し、郵送物に貼り付け、配送置き場に置く作業はパートの仕事。
主に誰がやるとか決まってないけれど、中身の書類を作成した人が行う流れになっており、その中身は頭を使うし神経も使うので黒川さんがやったようだ。

そして、その宛名シールを印字しプリントをするのすらミスってシールを無駄にしてしまった。
宛先が移転しており、それに気付いたのは黒川さん。

「企業HPで住所をもう一度確認してからの方がいいです。移転していることもあるんで、そのまま履歴使っちゃうと古い宛先になっちゃうから。」

 そこまで気付く彼女がすごいのか、それとも気付かない私が普通じゃないのか。
だが、この職場で求められている水準は、きっと彼女くらいのしごでき感。

ここじゃない。

そう思っているのは、私だけじゃない。
周りの人達もきっと、そう思っている。


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