所詮、パート

バインダー 仕事
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 花山さんの口癖だ。
面倒な業務をさせられたようで、社員が会議で出払うと、苛々しながらキーボードを叩きこの台詞。

「うちら、所詮パートなのにね。息抜きで働きに出てるっていうのになんか最近、割に合わないわ。」

 同じパートという立場ながら、私は彼女の隣で雑用のファイリング用バインダーの見出し作り。彼女は木佐貫さんから振られたというデータ作成作業をしており、私が行うただのコピペとは違って、複雑な関数処理を使い求められているデータを抽出したりと大変そうだ。
黒川さんはこの日は休みで、だから告げ口しそうな人間はいないからか、フロアに2人きりということもあって彼女は解放的なようだった。

「木佐貫さん、Excel苦手なのは分かるけどさ、これどれだけ時間かかるか分かってないんだよ~。一度やってみたら一日がかりだって分かるのに~。でもあの人、絶対Excel苦手って言わないの。米田さんもだよ、え?この関数分からないの?ってのがいくつもあって、知らないのはいいんだけど知ったかぶりするんだよね。社員ってだけでプライド高過ぎてめんどくさ~。」

 「花山さんが仕事出来すぎるんだよ。」

「そんなことないって。前の会社では普通だったし。社員はもっと出来る人ばっかだったし。やっぱり大手とは違うよね~。なんかやり方も効率的じゃないし。」


「私はちゃんとしたところ勤めてないから分からないけど、花山さん、すごいね。」


「全然~。派遣渡り歩いてたから、米田さん達より社会知ってると思うけどね~。一つのところにずっといたら駄目だよね。なんとかの蛙っていうじゃん?」


 あなたは凄いと褒め続けていたら、満足したようだ。実際、本当に凄いと思う。第一印象はちょっとぶっ飛んだやばい人で、どうせすぐに辞めてしまうだろうと思っていたけれど、実際のところ、仕事はテキパキこなすしPCスキルは恐らく米田さんよりもありそう。


「繁忙期に突然辞めたら、みんな困るかな~」

 にやっと笑う彼女の本心が分からず、つい動揺してしまう。彼女に辞められたら困るのは会社だけではない、私も困る。気軽に分からない業務を聞く人間がいなくなるし、またミスをカバーしてくれることもある彼女は、性格的には微妙なところがあっても今の私にはなくてはならない存在なのだ。


「辞めてやろっかな。なんか色々、面倒になってきちゃった。」


 彼女がこんな風に文句を言う原因は、黒川さんに対する態度と自分への態度が違う米田さんらに思うところがあるからだ。米田さんは、黒川さんがお気に入りで、しかも年下だからランチに誘ったり雑談をしたりと和気藹々とする中、花山さんとは一定の距離を置いている。というのも、課長にべたべたした態度を取ったり、また米田さんや木佐貫さんのミスを課長に言いつけたりするところがあるからだ。花山さんは、あくまでも「報告」と言っているが、米田さんらからしたら「告げ口」に他ならない。そういうちょっとした誤解なのか摩擦が積み重なり、今ではつかず離れずの関係となり、ランチも毎回一緒にすることが無くなったようだった。

「この職場、なんか暗いし。前のところは綺麗だったし人も良かったし。」

 ふっとIT関係の職場を思い出した。小川さん、元気だろうか。あそこはオフィスもドラマに出て来るような綺麗なところで、人間も良かった。ただ、私の能力が無かっただけのこと。


「花山さんが辞めたら、困る。」

 つい縋るようなことを言ってしまい、情けない。
彼女のことは正直、好きか嫌いかで言ったら「あまり好きではない」人種なのに、私も他人を都合よく使っている嫌な奴だ。


「そんなこと言われたら、辞められなくなっちゃうよ~」


 満更でもない笑顔に、ほっとするズルい私なのだ。

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