日を遡るが、子が合格発表の日。
人生初の受験、その結果を家族で喜びささやかだがお祝いをした。
そんなさなか、義姉ー三女から電話が掛かって来た。義父の検査結果が出たという。
最悪なパターンを予想していたのだが、良性のものだと分かり一安心。
無神経な三女
「そうそう、受験、どうだった?代わってくれる?」
独身で子どものいない三女にとって、我が子は血の繋がった姪。
なんだかんだ我が子のように可愛く思ってくれているのだとほっこりした。
我が家はお祝いムードだったし、子も義姉と話したいと言うので電話を代わった。
子が、合格したと伝える。しかし、その直後に子の表情が曇ったのを私は見逃さなかった。
「へえ。すごいね。あいちゃん、新聞に載るの?」
子にとって、一つ下の従姉妹がとあるピアノコンクールで賞を取ったという。
かなりの難関で、受話器越しに義姉のはしゃぐ声が聞こえた。
新聞といっても全国区ではなく小さな街新聞のようなものだけれど、もしかすると、あいちゃんの快挙が掲載されるかもしれないと言うのだ。
正直、この時だけは子の合格話にだけ花を咲かせて欲しかった。
それでなくても子は従姉妹にコンプレックスを抱き続けてきたというのに。
なぜ、このタイミングでそんな話するの?と言いようのない怒りが湧いた。
金の卵
私立の音大付属に進むと言っていたあいちゃんが地元の吹奏楽で有名な公立を受けると方向転換し、次女は気を揉みながらも娘の意思を尊重するのと引き換えに、ピアノも頑張る、高校受験も手を抜かないと約束した去年のこと。
あいちゃんは、その約束を果たしたのだった。
「OO音大付属?すご。」
子は、スマホ片手に、あいちゃんの志望校とする高校を知り驚きを隠せないようだった。
有名人も数多く出ている難関校。そこを目指せるだけの素質があるということ。
以前から、義実家の中であいちゃんはスターのような存在だった。
他にも優秀な姪や甥はいるけれど、あいちゃんは生まれ持った人を魅了する何かがあるのだ。
見た目も可愛らしく、華やか。勿論、ピアノだけではなく頭脳明晰。
表立って孫に差は付けなくても、集まれば何となく分かってしまう。
義両親にとっても、あいちゃんは自慢の孫なのだ。そして悲しいことに、そのあいちゃんと性別も同じ、年齢も近い我が子は、比較対象となってしまう。
比べる育児からは何も生まれない
義姉との電話が終わり、子に声を掛けるのが躊躇われた。
ご丁寧に、子のラインにあいちゃんの動画まで送られて来たようだった。
コンクールの演奏動画。
ライン動画なので音声は悪くても、素人の私が聴いただけでも素晴らしいピアノ演奏だということが分かる。
子は、黙ってそれを聴いていた。どんな気持ちでそれを聴いているのだろう、想像するだけで胸が痛くなった。
比べても仕方がないよーなんて口が裂けても言えない。
そんな言葉を発したら、親さえも自分と従姉妹を比べている、そんな風に子は思うだろう。
だからといって、とって付けたようにこのタイミングで子を褒めるのも変だし。
「じいじ、大丈夫そうで良かったね。」
話を変える、これが私の精一杯。
そして、少しタイミングをずらして再び、子の合格を称えた。