疲れた。
雨で涼しい日だというのに、真昼間から缶ビールを開けてしまった。
これくらいの贅沢、いいよね?と自分に限りなく甘い私だが、つまみは作り過ぎて余った、冷凍していた唐揚げだ。
ちょびちょびビールを口に含みながら、やっぱり暑い日に飲めば良かったと後悔する。
少しも美味しくない。
昨夜、花山さんからラインが来た。
明日のシフトを代わって欲しいと。
ということは、丸一日出社。しかも台風。
丁度、風呂からあがり、ニュースや天気予報で台風情報を観ながら明日は休みで良かったと思っていたその瞬間に届いたライン。
断ろうと思ったけれど、先日ぶっ壊したExcelを彼女が直してくれたことを知った手前、引き受けることにした。
「米田さんに怒られた?大丈夫~?でもあれ、私が元に戻したんだよね。」
「え?そうなの?ごめんね。大変だったよね、ありがとうございます。」
「全然。気にすることないよぉ~。でも芝生さんも米田さんに言われっぱなしじゃなくってもっと強く出た方がいいよ。別にあの人から給料貰ってる訳じゃないし。あの言い方とかあり得ないし、人として常識ないよね。私だったら耐えられない~芝生さんももっと言い返せるだけのスキル身に付けた方がいいよ。同期だからこれからも頼ってねー私も困った時はお願いね♡」
励ましかマウントか、どちらにしてもしっかりと恩を着せられたのだ。
そしてその恩返しを早速要求されたのだった。
米田さんの前では猫をかぶっている彼女だが、会議などで席にいない時の悪口は止まらない。
敵対心?を結局は持っているということか?とも思う。
自分はパートだが、彼女よりは上だという認識を、自分だけでなく周囲にも持って欲しい、そんな感じ。
「米田さん、Excel苦手みたいね。苛々しながら修正しててさ、なんか見てられなくって。やっときますよ~って声掛けたらあっさりこっちに回して来たからね。でもさ、別に難しいことなんかしてなくて。なんであれ直せなかったんだろう。計算式あんま分かってないのかな?正社員なのに。でも、ずっとここしか知らないっぽいし、大きい会社で勤めたことないからスキルも平成で止まってるのかもね~」
彼女は派遣で数々の大手企業を渡り歩いて来たことが自慢なのか、息子自慢に加えて最近では自分の職歴も聞いてもないのに語りたがる。だがずっと正社員じゃないよね?とも思う。
そんな私の疑問を想定していたかのように、子育てで大変だから家庭と両立する為、敢えて社員の道を捨てて派遣を選択して来たことを付け加えるのだ。
「ワークライフバランス大事だよ~この年で、あくせく働きたくないもん。自分のお小遣い分稼げればいいし、あとは暇つぶしと脳トレ。」
お気楽な彼女の言葉に、ムッとする。だがそういう話は私の前だけで社員の米田さんらの前では当たり前だがしないのだ。
そんな彼女の働き方は、暇でちょっと小遣いが欲しくて、天気が良くてという日に出勤出来ればいいという感じ。
ふっと、この間目にした彼女の秋仕様のネイルを思い出す。
お金も時間も自分の為に掛けられる彼女に、私はあと何年経ったら追い付けるのだろうー
「台風だし、帰っていいですよ。暇だし、特にやることもないでしょ。」
課長から声を掛けられ、今日は折角代わりに出た分しっかり一日分稼ごうと思っていたのに当てが外れた。
時給で働く私は、会社にとって「必要な時だけいてくれればいい」存在。
この雨の中、面倒でも出勤したのに。
しっかり有給を取った花山さんの方が稼いだという結果に気持ちが落ちて、それをぐっとビールで流し込む。舌の先に残った苦みはきっと、ビールだけのせいじゃない。