日曜の夜くらいは

白熊 わたし
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 日曜の夜くらいはーというドラマに魅入っている。
あの空気感に共感出来るというか、私は彼女達のように若くないし置かれた環境も過酷ではないけれど、抱える孤独感のようなものに心打たれた。
けっして明るいドラマではないけれど、なんだか沁みる。

一番高いアイスを食べる

 主人公は、車いすの母親を介護しながらファミレスで長時間労働をし生計を支えている。
ごめんねを連発する母親に苛々しながらも、家事に仕事に介護に日々押しつぶされないよう黙々と日常のタスクをこなしていく。
感情を出さないこと。それが自分を守る術。生きる為に心を無にして。

 母1人娘1人の2人暮らし。
どうしても煮詰まる時、車いすの母親を連れて外に出る。
夜更けのコンビニ、そこで一番高いアイスを買って食べる。
一番高いアイスーというのがポイント。一番美味しいでもなく、高いアイス。
それを食べて、まだ頑張れる。まだ大丈夫と踏ん張れる。




事情を抱えた女子3人のバスツアー

 とあるラジオ番組のリスナーでもある主人公の母親が応募した貸し切りバスツアーに渋々参加することになり、そこで2人の女性と出会う。
1人は祖母と2人暮らしの工場勤務―もう1人は孤独なタクシー運転手。
2人とも、訳アリ。
主人公は、その二人の勢いに押されながらも「楽しい」という感情が抑えきれなくなる。
これまで抑えていた感情が楽しい気持ちに負けてしまう。
楽しい2泊3日はあっという間で、別れの時間。
互いの生活について深く知ることのないまま、「今」を共有し純粋に楽しんだ3人。
ライン交換しようと言われて断る主人公。
また、日常に戻る。

期待してしまうから敢えてシャットダウン

  人は、期待外れに弱い生き物だと思う。
主人公がライン交換をしなかったのも、後に連絡待ちをしてしまうから。
社交辞令的に数回やり取りをしても、現実世界に戻ればその数回の間隔は次第に空いていき、そしてフェイドアウト。
楽し過ぎただけに、繋がりを持ってしまえばその後に続くものを期待し過ぎる。
その期待が外れた時に、自分が受け入れられなかったような、もっといえば自分の存在を全否定されたような気すらしてしまう。
極端な話だけれど、日々折れそうになりながらも踏ん張って心を無にして生きているからこそ、些細なことに振り回されるし疲弊する。
もうこれ以上、心を無にしなくてはならない材料を増やしたくないのだと思う。
楽しかった思い出の写真を削除ーそこまでしなくても・・と思ったけれど。
二度と彼女らに会うことはないんだという主人公の覚悟が切なかった。



ドラマだから次はあるのだろうけれど

 予告をちらっと見た限り、ドラマだから勿論「次」はある。
でも現実世界では、「次」が無いことの方が多い気がする。

 私もこれまでそうだったから、痛い程分かる。
ママ友付き合いだけではなく、学生時代、バイト、契約社員時代ー
その時々、あんなに一緒にいたのにー手に取るように互いのパーソナルな事情を分かり合えていたつもりの関係であっても、ぷっつり連絡は途切れて今に至る。

 引っ越し前のママ友や、高校時代の友達ー、今回のGWにふと連絡を取ろうとしてやめた。
その時は楽しいのだけれど、再び日常に戻る時の切なさが辛い。
彼女らといる時の私は、家族の前や今ここで暮らしている私とは違う自分。
どちらの自分が好きかと言えば、彼女らといる時の自分なのだ。
そんな自分にいったん戻り、楽しい時間を過ごした後、再び元の自分に戻るのがしんどい。
楽しいからこそテンション上げて、ちょっと無理している部分もあるのだけれど。
そんな明るい自分が好きだったりする。なりたい自分にその時はなれている気がする。
だから、また元の自分に戻ることが分かっている分、その落差のしんどさを味わう必要もない淡々とした暮らしに身を置きたくなるのだと思う。
年を重ね、楽しい時間を素直に受け取れない自分が悲しい。



それぞれの日常に戻りアイスを食べる

  主人公と分かれた後の2人もそれぞれ元の生活に戻るのだけれど、楽しかったあの時間が更に現実を空虚なものにしていく。
それでも、主人公から聞いた唯一の自分語りの中にあった、しんどい時は一番高いアイスを食べるーという話を思い出す。そして、実際にアイスを買って食べる。

人との出会いはそんな繰り返し。
出会って、人生のある一定期間を共に過ごし、時間を共有する。
卒業だとか転職だとか、結婚や出産や引っ越しなど、それぞれ別のステージに足を踏み入れることで疎遠になり、出会いは思い出に変わる。
それでも、ふとした瞬間、十数年前のことを思い出したりもする。

ー元気だろうか?

 彼らの身を案じながらも、連絡を取るまでの関係性ではないし連絡先も分からない。
過去の思い出達は、現在に至るまでに磨かれ美化されていることもあれば、すっかり埃をかぶり靄が掛かったようなものもあって。
その時々、置かれている状況ではその些細な記憶に助けられることもあるし、あの時の言葉が今の自分を支えてくれることだってある。

 つい、主人公が食べていたアイスと同じものを店で買い、一人の夜に食べた。
こんな風に、心を動かされるドラマは久しぶりだ。

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