職場のランチ会議に出席して来た。
社長含む、大人数の会食会。
各数人ずつテーブルに分かれており、同じパート仲間同士で座れるかと思っていたのに、見事バラバラにされた。
部署ごとでもなく、ランダムに。
席表が予め配られ、ますます憂鬱。
私の席は、同じフロアの顔見知りの女性が一人、それにあとは営業男性などで話したこともない人。
お偉いさんと同席ではないだけマシだったけれど、それでも居心地は最高に悪くなるだろうと予想した。
隣が女性だったので、勇気を出して話し掛けたら向こうも好意的な感じだったのは救い。
「私は派遣なんです。」
てっきり社員だと思っていたのに、派遣さんだった。私はパート雇用で時給も違うし立場も違う。なので会話に気を付けないと地雷を踏むかもーと注意した。
会が始まり、会議というよりは懇親会に重きを置いている風だった。
社長含む役員らが一通り挨拶と、今年度の業務成果発表のようなことをし、更に各エリア長らが一言ずつ振り返り。
一通りの流れが終わり会食になると、各テーブルでご自由にといった感じ。
コース料理が運ばれ、黙々と食べるのも気まずいと困惑していたら、向かいや逆隣の男性はTHE・営業といった感じで、私達女性2人に気を遣って話し掛けてくれて、あんなに不安で憂鬱だった会だったのに、徐々に楽しさすら感じ始めた。
「米田に虐められてないですか?」
米田さんと同期だという男性社員に冗談っぽく言われ、はい!怖いです!なんて言える訳ない。
「いつも良くしてもらっています。」
無難に答える。
会話にならないというか、膨らませることが出来ない私なのに、よくもまあ次から次へと話題を提供してくれる彼ら。
「飲み物、大丈夫ですか?」
細やかな気遣い。むしろ女の私の方が先に声を掛けるべきなのに。
派遣女性も感じの良い人で、仕事のことだけでなく子どもの話ーお互い今年は受験生の母親ということで意気投合し、会話が弾んだ。
テーブルは6人席でほぼ初対面同士だったことも良かったのだろう。
知り合いの輪の中にポツンとならず、お互い、どんな人なのか立場なのかも分からない関係性。
まるで異業種交流会のように、盛り上げ役の男性を中心に会話は続く。
私はいつものように受け身でいるだけなのに、学校関連の集まりの時のような疎外感を感じることもなく、また同じ職場の米田さんや木佐貫さんらとのランチのような息苦しさを感じることもなく、心地良い時間を過ごすことが出来た。
夫主催の仕事絡みの新年会の方が、余程気を遣ったし手持ち無沙汰だった。
「明日はホワイトデーでしょ?うちのフロア、数年前に禁止になったはずなのにまた再開したんですよ。貰って嬉しい反面、お返しに悩みますよね。お二人は何を貰ったら嬉しいですか?」
「私は食べ物がいいです。むしろ高級チョコとか。一番困るのがハンドクリーム。あれ、たまりません?」
派遣さんが私に向かって困ったように同意を求める。
「そうですね、肌に合う合わないもあるし。チョコは嬉しいですね。お菓子なら家族も食べられるし。」
「危ね~!今日、帰りにハンドクリーム買いに行こうかと思ってたんですよ。でも、チョコ貰ってチョコ返しって大丈夫ですか?」
「そこです、むしろクッキーとかキャンディーとかばっかだからこそ、敢えてのチョコです。」
「聞いて良かった!皆さんの部署、バレンタインありました?」
「うちは廃止されたまんまですよ。」
「私は一応、フロアの女性社員が一人いくらってお金集めてやりました。去年も、男性方からホワイトデーいただいたけど、なんか申し訳ないくらい高価な感じのお返しだったのでちょっと微妙なところが本音です。」
「芝生さんのところはどうでした?」
まだ会って間もないのに、名指しで呼ばれることに親近感をおぼえる。
こういう自然な距離の縮め方が出来るから、営業職なのだなと感心する。
「私のところは、一部はしていたようですけど・・私はバレンタイン当日はお休みいただいていたのでそのままやらずでした。やるべきか悩みましたけど。」
そんな他愛のない雑談をしていたら、あっという間に二時間経った。
素面だが、楽しめた。
苦手だ、嫌だー、逃げてしまおうか、とネガティブな感情に支配されていた数時間前から一転、楽しいひと時を過ごせたことで、自分という人間が分からなくなる。
人嫌いだと思う自分と、案外そうでもないかもしれない自分。
その狭間を右往左往しながら、無理をしない範囲で、だが苦手なことにチャレンジすることで新しい自分に出会える可能性は広がる。この年であっても。
だから、嫌なことから100%背を向けることが出来ずにいるのだ。