ペンを動かす

ノート
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 子が一年の頃から仲良くしている、ダンス部の友達。
彼女が指定校を取ったという。しかも、マーチよりもランク上の大学。
彼女の家にはお泊りにも行ったことがあるし、子が2年生でクラスに馴染めていなかった頃も何かと気に掛けてくれていた親友のような子。

「すごいね!頭がいいんだね。」


 子の友達ということもあり、素直にそう思ったのだけれど、子は浮かない顔。
総合型選抜で小論文対策をしているのだが、最近は塾で何度もダメ出しを受けており自信喪失。
なかなかうまくいかず、伸び悩んでいるところで友達の朗報を耳にし、自分と比べてつい落ち込んでしまうようだった。


「指定校ねらってたこと、初めて知った。勉強だってあんまりしてなさそうだったのに。」


 どうやら、友達は内緒で指定校を受けていたらしい。内緒といえば聞こえが悪いけれど、無駄に情報開示してライバルを増やしたくなかったのかも・・
ただ、何も知らせてくれなかったことに子は少なからずショックを受けているようだった。まるで出し抜かれたような気持ちに陥っているようだ。


「1年の頃からコツコツ努力してたんだよ。部活だってやってるし、皆勤賞でしょ?」

「うん、確かに学校は休んだの見たことないかも。でも、なんで教えてくれなかったのかな。」

「不安だったんじゃない?みんなに話して、校内選考落ちたら恥ずかしいとか。分からないけど、その子はその子だし、花子は花子だし、比べても仕方がないよ。」


「指定校だともう合格したようなもんだよね、いいなぁ。」


「でもその子はずっと指定校取れるように学校も休まず努力してたんだから。それに、同じ様に努力しても校内選考が駄目だった子もいるだろうし、そういう子達の悔しさを思えば、ちょっと甘いと思うよ。」


 指定校は駆け引きだ。どこに人が集まるかも分からない。第一希望が人気校だからと2番手を希望したら、同じ様に思う自分よりもちょっと上の評定の子に取られ、結局第一希望の大学が余ったり。また、枠が多いから希望者が集中するかもーと敢えて1枠しかないところを選んでみたりしたら希望者が何名もいたり。例年のようにはいかないし、その学年カラーもあるだろうし、結局のところやはり運によりものが大きい。

「まぁ、そうだけど。はぁー。なんか疲れちゃった。」


 夏前から総合型選抜対策に全振りしている子。ただ、これだって必ず合格という保証は無い。もし失敗したら一般に切り替えるとしてもかなり厳しい。勉強も追い付かないだろうしーだが女の子で浪人は無理だろうなと思うと、子の焦りと不安は手に取るように分かるのだけれど。


「大丈夫!何とかなるって。」

 何を根拠にーと子は思うだろうけれど、そんな言葉くらいしか掛けられなかった。
だって、今はやるしかないのだ。不安を消す為には、ペンを動かすこと。いつか夫が子にそんな言葉を掛けていたことを思い出した。


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