お隣の針金さんとエントランスでばったり。
鮮やかなイエローのシャツを着こなし、その存在だけで周囲を明るく照らしてくれそう。
相変わらず暗いトーンの服を着ている私よりずっと年上なのに、なんて素敵なのだろう。
お裾分けのお返しをまだしていなかったと焦るけれど、本人はそんなことは気にしていない様子。
そして、少しの立ち話。
なんだか疲れてしまった。
世界の違う人
多分、彼女は生まれつきの陽キャ。
世代は違うけれど、きっと学生時代からこんな風にどんな人の懐にもするりと入り、自分を出せる人なのだと思う。
色々落ち込んで孤独を感じている今のような時に、彼女と会い世間話はなんだか辛い。
要するに、彼女の見えている部分だけの「陽」に嫉妬してしまうから。
彼女にだって「陰」はある。ただそれを人前で見せないだけ。大人なだけ。
分かっていても、どうしても見える部分にだけスポットを当てて、あー、私には無理だと落ち込んでしまうのだ。
居場所の多い人
「あの時の猫ちゃん、仔猫産んだのよ。なんだかお祖母ちゃんになった気分ね。懐かしくって。またちょくちょくお邪魔してるの。」
以前、公園で猫を囲むひと時を過ごしていたあの頃を思い出す。
彼女は、そこで仲間を見付けた。私と彼女と猫の空間は、あっという間に世代も違うママ軍団とその子ども達に浸食され、子ども達にとって猫は格好のおもちゃで。
私は次第にその輪からフェイドアウト。そもそも輪にも入りきれないままだったのだけれど・・
ママ軍団の一人がその猫を保護することになったのだというところまでは覚えていた。
もうあれから随分経って、まさか針金さんが彼女らと続いているとは思わなかった。
そして、更に保護猫のボランティア活動までしているという。
そこでまた輪が広がり、その仲間たちとランチをして来た帰りだというのだ。
一昨日も、洗濯物を干していたら針金さんが見えた。
ジャージ姿にテニスラケット。私より年上なのに、若々しく溌剌としている。
住む世界の違う人
自分とは世界が違う。
そんな彼女を羨んでも仕方ないのに。
いやー、羨むというか、自分のこの性格に嫌気がさす。
今は仕事もしていないので、毎日毎日家族としか会話しない日々。
このまま面接も通らなかったら、口下手に拍車がかかり、更にしどろもどろで採用されない気もしてくる。
私宛の電話なんて、実母くらい。
なんて寂しく詰まらない人間なのだろう。
一人っ子じゃなければ、子どもの数だけママ友を作るチャンスはあったのかもしれないけれど。
複数子の親だったとして今と変わりなければ、それはそれで虚しいけれど。
子どもが話し相手になってくれたかも。
もしかしたら、友達以上に相性の良い子どもが生まれたかもーなんて、くだらない妄想までしてしまうのだ。
子どもは親の友達代わりになんてなれないのに。
こんな考え方、「毒親」まんまじゃないか。
誰からも好かれる魅力的な人ーとまではいかずとも、誰か一人からでも必要とされたらこんな寂しい気持ちにはならないのかもしれない。
生き方を責められている気になる
「ごめんね、引き留めちゃって。またね。」
エコバッグをぶら下げてる私を見て、買い物に行くところだったのだろうと気付いた針金さん。
本当は買うものなんて特にない。
家の中にずっと籠っていると気が滅入るし、天気も良いからぶらっと出ようとしていただけ。
でも、それ以上彼女と立ち話をする元気はなかった。
少なくとも今の私は、彼女からエネルギーを貰えない。
なんていうか眩し過ぎて疲れてしまう。
彼女の生き方が正しく、私の生き方は間違っているーと誰に言われた訳でもないのにそう思ってしまうのだ。
なんて悲しく歪んだ思考回路なのだろう。
きっと私が元気になれるのは、自分と同じ様な性質を持った人なのだと思う。
それが表には表れていなくても、何となく分かる。
ソウルメイトというものは、そういうものーそう思う。
馬が合う人ー疲れない人ー、一緒にいて楽しく元気を貰える人。
そして時に自分も何かを与えられる人。
ただそういう人に、いまだ巡り合えていないのだ。