朝一で面談があった。課長とだ。
覚悟はしていたけれど、改めてそういう場に呼ばれると膝がガクガクして震えが止まらなかった。
私の失態は、きっとフロア中に伝わっているのだろう。皆から好奇の目で見られている、そんな感じを受けながらミーティングルームへ入った。
「もう、分かっているかと思うけど・・」
「申し訳ありませんでした!!」
課長の言葉を待てず、先走り謝罪。
真向いに座る彼の顔を直視することが出来ない。
「ミスは誰でもあるから、それはいいんですよ。ただー、その場ですぐに報告して貰わないと、今回は社内保管の契約書だったのでコピーがあれば十分だったんだけどね。取引先のものだったら一大事。社全体の信用問題に関わるしね。」
「その時は、気付かなかったんです。原本だと思っていました。ただ、家に帰ってなんとなくその日の業務を思い出した時、ちゃんと確認してなかったと思って。もしかしたらって・・」
つい嘘をついた。本当はあの時、ミスったと思いすぐに確認したのに。それは明らかにコピーだと判明したのに。虚偽報告をしたのだと思われたくなかった。虚偽を更に嘘で塗り固めてしまう。
「そうですか・・にしても、あなたのミスの件では、他からも色々報告があってね。ちょっと多過ぎはしないかと。正直、業務もそこまで多くはないと思うし、他のパートさんと比べてもね、午前勤務だから割と軽いものを振っていると思うんだけど。どうですか?」
「・・・はい、そう思います。ただ・・私なりにやっているんですけど、どうしてもミスが起きてしまって。」
他から報告って・・米田さんの顔が浮かぶ。いつも私の愚痴を課長に吐いているのだろうか。
それとも、木佐貫さん?いや、花山さんや黒川さんかも・・いや違うー、皆からだ。それに気付いた途端、肩を落とす私に、課長の声のトーンは幾分か優しくなる。
「急がなくていいから、ダブルチェックとかしてますか?事務仕事はね、ダブルチェックは最低限。出来ればトリプルチェックしてもいいくらいでね。後はね、周りともっとコミュニケーション取って欲しいんですよ。芝生さん、いつも一人で黙々とやってるでしょ?話し掛け辛いというかね、もうちょっと・・例えば花山さんみたいにオープンな感じでいてくれたらこちらも色々やりやすいっていうかね。」
ショックだった。
花山さんと比べられたということもそうだけれど、私が話し掛け辛いオーラを出しているのだということを指摘されたこと。いやいや、それは米田さんら社員じゃないの?彼女達がいつもピリピリ苛々していて、しかも威圧的で、だからこちらから話し掛けられなくて。だから黙々と仕事をするしかなくて。そういうこと、この上司はまるで分っていないのだと失望した。
「まあ、今度から気を付けて下さいね。・・じゃあこれで。あ、何か言いたいこととかありますか?」
課長は部長と比べたらパートの私達ともそれなりに距離感が近く、また、私はおばさんであっても女性だからーというこのパワハラやセクハラに敏感な世の中においてちょっとでもそのボーダーに触れないよう気遣っているのが分かる。注意を受けたのだけれど、それは米田さんから受けるものより何十倍も柔らかく感じた。
「本当に、申し訳ありませんでした。以後、気を付けます。」
クビ覚悟だったけれど、そうじゃなかったことに安堵感。
しかし少しして、実は退職に仕向けているのかと思ったり。
課長の真意は分からないけれど、取り敢えず3月まではねばりたい。
「大丈夫ー?」
花山さんがウキウキしたような声で、心配を装いながら話し掛けて来た。
曖昧に笑顔で頷きながらも、具体的なことは伝えない。ここでは誰も信用出来ないのだ。
厳重注意
仕事