町内会の夏祭り。
台風の影響で中止になることを期待していたのに、晴天。
あと数日ずれていれば雨だったのにーと残念な気持ちになったけれど、手伝うと決めたのは自分なのだから、気持ちを切り替えて参加して来た。
お盆休みの任務
実は、この助っ人に参加した理由の一つは、義実家に行きたくなかったから。
丁度、この日に集まるかもーと夫から聞いていた。
子は、夏休み前から友達とプールへ行く約束があったので不参加。
となると、夫と2人で訪問の流れになる。
パートのことで余裕がない今、義姉らの顔色を伺ったりすることに神経をすり減らすのは気が進まなく、たった一時間程度の我慢で義実家訪問を免除されるのならば、そちらの方が断然良い。
「え?夏祭りは役員の仕事じゃないの?」
夫はぶつくさ文句を言いながらも、町内会や子供会、子の学校関連の役員などは母親の仕事とノータッチにして来たことで、断れないのだとこちらが言えば、そういうものなのかとすんなり受け入れてくれた。
やるべきことが明確な気楽さ
ドキドキしながらも、指定された時間に屋台の場所へ行くと、数人の役員と針金さんがテキパキと動いており忙しそうにしていた。
屋台の前は、長打の列。
ゲームということで、親子連れが多い。
「お疲れ様です。」
屋台の裏からそーっと入り、針金さんの肩を叩く。
「あ!来てくれてありがとう!ちょっと待ってね。」
笑顔の針金さんにほっとする。他の役員は何となく顔見知りなのに、私をちらっと見ると何事もなかったかのように客とのやり取りに忙しそうだ。
「15時から手伝ってくれる芝生さん。」
やり取りの合間を縫って、他の役員に私を軽く紹介してくれた。そして、私はゲーム内容とその結果に伴う商品の籠を指示されて、すぐに交代する人とバトンタッチ。
以前の私なら、これくらいの作業指示でもパニックを起こしアタフタしていたように思う。
しかし、内容はすーっと頭に入り、またスムーズに交代出来て、あとは流れ作業のように説明通り、機械的に動く。
針金さんは、10分程度私の作業を見守った後、持ち場を離れて本部へ行ってしまった。
「時間になったら、あがってくれて構わないから。次の交代の人が来るからよろしくね。」
客をさばきながら、私は大きな声を出す訳でも会計をする訳でもないので気楽な作業。
なんだか充実感すらおぼえる。
こんな風に明確な役割を与えられれば、いつまでだってそこにいられる。
但し、身の丈に合った役割に限るけれど。
ママ友から友達への昇格
30分も経てば、周囲を見回す余裕すら出来る。対面の屋台は焼きそば。そこも大繁盛。
くねくねと長蛇の列が出来ている。
その中に、スネ夫ママと素敵ママ、それに孤高の人がいた。
3人で、ビール片手に大笑いしている。
久々に見たスネ夫ママは、日傘にサングラス、ロゴTシャツにグリーンのロングスカート。
孤高の人は、キャップにタンクトップとショートデニム。スタイルが良いのですらりとした長くて細い足が際立っていた。
素敵ママは、相変わらずな上品さでグレーのワンピースにブルーのカーディガンを肩に巻いていた。
お洒落な3人組ママー彼女らは、子ども抜きで祭りを楽しんでいるようだった。
素敵ママも孤高の人も、下の子はいったいどうしたのか?まだ低学年だったと思うけれどー、そんな私の心配を他所に大盛り上がりを見せていた。
楽しそうで、いいな。そう思う。
子が中学を卒業し、ようやくこうしたママ友関連のモヤモヤから解放されたと思ったのに、油断すればすぐに羨む気持ちに腕を捕まれてしまう。
彼女らのように、ママ友を得ることー、それに加えママ友から友達への昇格を経た人間関係を築けなかった私にとって、その光景は眩しくも羨ましくもあり、だが自分をつい正当化してしまう。
ー所詮、表向きの付き合いなんだから。お互い、心の中ではマウント合戦してるでしょう。
素敵ママが、しつこく子の進学について聞いて来たことを思い出す。
付き合いがあれば、どうしたって我が子の情報提供をしないとならないし、その輪が広がれば広がる程、情報は尾ひれ背びれを付けて、自分の居ないところで面白おかしく流されていく。
それに、無駄に交際費だって掛かるだろう。
付き合いが無いのは寂しいこともあるけれど、メリットだってあるのだ。
そんな風に、自分を励ます。
孤独は、比較によってそれを色濃くしてしまう。比較対象が目の前から無くなれば、なんてことはない。それは日常になる。
大丈夫、私は私。それでいい。
ここが、焼きそばの屋台ではないことに胸を撫でおろす。さすがにゲームの屋台には来ないだろう。
彼女達に見付からないように、ひっそりと自分の任務をこなした。
仕事の後の一杯
あっという間の一時間。
次の人ともスムーズに交代出来て、一期一会のやり取りは気楽で清々しい。
「お疲れさまでした!」
「お先に失礼します。」
「あ、ちょっと待って。あなた、飲める?」
「はい。」
「じゃあ、そこのクーラーボックスの中の、適当に持って行って下さいね。今日はありがとうございました!」
クーラーボックスにはお茶やジュースの他、ビールやチューハイなどたくさん冷やされた飲み物が詰まっていた。
有難く、レモンサワーを頂く。
ここが誰とも会うことのない知らない土地だったら、そのままチューハイ片手に屋台をうろうろ寄り道、フランクフルトでも食べて祭りを楽しんだのだろうけれど。
祭り会場を離れ、自宅に近付く。家で飲んでも良かったのだけれど、我慢出来ずプルトップを開けた。
一口、しゅわっと口内に広がる爽快感。美味しい。
労働の後の一杯に勝るものはない。
一気に飲み干すと、自宅近くのコンビニで、サワーをもう2本買った。それに、チキン。
一人お疲れ様会。夏を少しだけ満喫した、そんな一日だった。