やってしまった。
良かれと思いした行為が向こうからしたら迷惑だった。
なんとなく体が重い、でも熱は無いしと出社した一昨日のこと。
しかし、職場に着いた途端、倦怠感は更に大きくなり、頭がぼーっとする。
そして咳が出る。
喉も痛い気がするし、何より顔がカッカして熱を帯びている。
「これ、計算が違ってます。」
「このリスト、途中で切れてますよ。」
立て続けに、ミスを指摘される。
謝りながらも、ではどう修正したら良いのかー、計算し直すが何度やっても同じ数字になってしまうし、リストも印刷範囲の設定がおかしいのか、ネットでやり方をググってみても縮小し過ぎたりでうまくおさまらない。
「大丈夫~?」
隣の席の花山さんが声を掛けてくれる。
彼女は優しい。そしてこの職場にすっかり馴染んでおり、先輩の木佐貫さんとは気が合うのか、仕事中でもちょっとした雑談なんかをしたりしている。
それでも仕事が早く、米田さんには褒められるし、またこうして出来の悪い同期のフォローまでしてくれる。
「ちょっと、顔色悪いみたいだけど!?」
花山さんが大きな声を上げ、周囲の人々の視線が私に集まる。
そして、米田さんから、
「具合が悪いんですか?」
聞かれたので頷きそうになるが、すぐに必死になりこう答える。
「でも、大丈夫です!ゴッホゴホ!!」
「無理しないで下さい。コロナも流行ってるし。咳もしてるし、今日は早退した方が・・」
「いえ、大丈夫でーゴホッゴホッ!!」
「熱、あるんじゃないですか?」
「いえ、外が暑くて。多分、熱がこもっているだけだと思います。」
折角出社したのに、ミスを指摘されそれを修正せずにそのまま早退だなんて心象が悪い。
ただ、書類を眺めても頭が回らないし、計算方法も複雑なので先月分の書類を手本にやっていたら、まさかの先月分の計算をしていたりとままならない。
「やっぱり、早退して下さい。」
「いえ、大丈夫ーゴホッ!!」
「帰った方がいいよ~あ、マスクあげる。」
花山さんにも早退を勧められる。
なのに私はムキになって、それを拒否する。
「いや、大丈夫です!」
少しして、米田さんが私のデスクにやって来た。
そして、
「それ、途中でいいから帰って下さい。咳もしてるし、正直、もしコロナだったりしたらこっちも困るんです。私達、この時期体調不良になって休めないんで。」
そこまで言われてようやくハッとしたのだ。
大馬鹿な私は、周りのことを考えず独りよがり。
まだ半人前なのだから、むしろ私がいる方が迷惑だということに気付く。
結局、そそくさと帰り支度をしていたところ、私が何度やっても計算ミスを起こしていた書類は米田さんから花山さんに渡り、
「大丈夫、こっちでやっとくから。ゆっくり休んでね、お大事に~」
花山さんからここまで優しい言葉を掛けられても、素直に感謝することが出来ずもやもやしていた。
退社時、パラパラとお疲れ様ですの声が聞こえたけれど、皆がどう思っているのか想像するだけで胸がきゅっと縮こまった。
米田さんから、今週はもう休んで下さいと言われたので、週明けの月曜からまた出社となる。
本当に、情けない。