昨夜は新年会だった。
自営の方。パート先の新年会と日程がかぶった為、こちらを優先。
どちらも憂鬱なのに変わりはないが、優先順位はどうしたってこちらになる。
正直、ほっとした。週1しか出勤しない私なので、勤務時間外の飲み会なんてコスパが悪い。
それに、もうどうやっても、花山さんや黒川さんのようにはなれないのだ。
もう、単発バイト扱いでも良いと思い始めている。
犬塚さんが手配した店は、日本酒が美味しいと評判の会席料理の店。
老舗らしく、1月ももう半ばだというのに予約は一杯。
夫いわく、一人あたり18000円でコース料理をオーダーし、それに酒なのでかなり経費がかかったとぼやいていた。
犬塚さんが勝手に店を選んだと言う。
夫と2人、少し早めに到着したが、吉田さんと犬塚さんは既に入口で待っていた。
私は黒いワンピースに、遥か昔結婚式で身に付けていた偽物だが映えるスワロフスキーのネックレス。それに婚約指輪をはめた。
いつもははめないそれを、わざと。
ぎくしゃくした挨拶を交わし、先に店に入る。吉田さんが取引先をアテンドするとかで入口で待つというので、私達3人は個室に先に入った。
夫と犬塚さんは2人にしか分からない仕事の話をし、私は蚊帳の外。
時間ぴったりに取引先の方々や税理士先生らがぞろぞろと。
夫が家では出さない高音のテンション高めの声で迎え、同じく犬塚さんも。
夫が私を「うちの家内です。」と紹介してくれたお陰で、私もなんとか愛想笑いと精一杯の挨拶を交わした。
緊張と何を話せば良いのか分からず、私は一番端っこの席を取った。勿論、下座だ。
夫は隣で真向いが税理士先生、その隣が吉田さん。
10人強の人数で、座敷でくつろげる席なのに私の背中は緊張で凝り固まっていた。
夫は私のことなんて忘れたように、卓上の酒を手に、あちこちにお酌をして回る。
私も、真向いの税理士先生にビールを注ごうとしたが、吉田さんが我先にと注いでしまったので、行き先の無くなったビール瓶を吉田さんのグラスに向けたのだが、税理士先生がお返しに注ごうとしたアクションとかぶり、何とも微妙な空気になった。
どうぞどうぞ、と先生が私にお酌を譲ってくれたので、再び吉田さんのグラスに瓶を向けた。
その流れで、私と税理士先生と吉田さんの3人で会話をする感じになり、だが仕事のことはよく分からない私の表情を察してか、娘のことを聞かれ、
「今日は留守番してます。もう高校生なので。」
「もう受験ですか?」
「はい、今年受験生になります。」
「お子さん、いらっしゃるんですか?」
「いや、うちはいないの。奥さんと2人きり。」
会話に詰まってしまった。
焦る私とは対照的に、吉田さんは再び先生のグラスにビールを注ぎながら、
「先生のところ、仲がよろしくて。今日、奥様もいらしたら良かったのに。」
「いやー、うちはね、好き勝手やってるのよ。友達と温泉旅行中。」
「またゴルフ行きましょう。奥様も。」
そこからゴルフの話になり、もうついていけなくなった。
夫がゴルフを接待でやっているのは知っていたが、吉田さんもたいした腕前のようで、先生がえらく過去のプレイを褒めていた。
「芝生さんの奥さんは、ゴルフしないの?」
「いえ、私は出来ません。」
会話が終了してしまった。
嘘つくわけにもいかないので仕方がないけれど、他に、行列の出来るラーメン屋だとか株だとか書籍や映画の話題になっても、吉田さんのようにポンポン会話を弾ませることが出来ず、ただ愛想笑いをしているのが精一杯。情報量も知識量も彼女とは雲泥の差。私ってなんて詰まらない女だろうーと自己嫌悪に陥ってしまった。
そんなこんなで会は終了し、私は子が留守番しているからと一次会で帰宅。
夫達は別の店へと繰り出していった。
料理だけは美味しかった。
ここずっと節約節制で、洒落た先付や新鮮なお造り、季節の天ぷらや寿司、頬がとろけるような柔らかい牛肉など、どれもこれも凝った料理で、本当はもっと料理に集中したいくらいだった。
環境はちっとも楽しいものではなかったが、人間、美味しい料理の力で気分は上がる。