奨学金の案内が来た。
夫が、あんなにプライドの高かった夫が、その案内をじっくり読み、そしてこう告げた。
「一応、申請だけでもしておいたらいいかもな。勿論、子どもに借金を背負わせるわけじゃなくて、俺が借りて払う、表向きの奨学金ってことで。」
義父から贈与された孫へのお金。
あれを事業費に充てさえしなければ、そんな風にならなかったのかと思うと怒りが湧く。
いや、だが私がそもそも十年以上も専業主婦で楽していたこと、それも一つの要因だ。
だから、夫だけを責める訳にいかないし、そもそも祖父母に頼ることが間違っているのだ。
「奨学金、実家には黙っとけよ。うるさいから。」
口留めされた。そりゃあそうだ。義父は子に大学費用を既に渡したと思っているのだから。
そして、
「そっちの弟、保証人とか出来る?」
奨学金は連帯保証人と保証人が必要で、連帯保証人の方は私達親がなり、保証人の方は子どもからしたらおじやおば、兄弟等がなるのが一般的。
「今、どこで働いてるの?」
先日、母が嬉しそうに弟の新しい勤め先の話をしていたことを思い出す。だが、あれからどうなったのか聞いてないし、最悪、もう辞めていることだって考えられる。
普段、うちの家族のことなんて無関心な夫だから、弟が仕事を辞めたり始めたり、ふらふらしていることすら知らないのだ。そして私の方も、夫にそのことを言えずこれまで来た。
「ここ最近、色々あって転職したんだけど。どうなってるのか分からなくって。」
「でも、社員だろう?社員なら保証人になれるだろう?」
この時、すらっと非正規雇用だと言えれば良かったのだが。なんだか喉の奥に物が詰まった感覚で言葉が出ず、曖昧な返事をしてしまった。
「まあ、まだ借りると決まった訳じゃないからな。まだ言わなくていいよ。ちょっと考えるわ。」
一応、私の方で子どもの進学の為に貯めている額は、夫に伝えてある。
頑張ってやり繰りすれば、入学金と1年目までの分は払えるのでなんとかなるかも。
弟に保証人になって貰うことー、出来れば避けたい。
借りは作りたくないのだ。
夫自身、信頼している自分の家族にすら本当のことを言えないように、私にだって自分の家族に対する複雑な感情がある。
心配させたくない、迷惑を掛けたくない、情けない思いをさせたくない、恥ずかしい思いをしたくない、駄目なヤツだと思われたくない、ほれみたことかと思われたくないー
そういった、いろんな感情が渦巻いている。
奨学金
