息子可愛さ婿憎さ

クッキー 家族
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 母は、弟に依存していることに気付いていない。
弟は、そんな母を利用している。
盆に入り、早速、実家へ行った。
弟は、不在。

「また、パチンコ?」

「仕事で大変なのよ。気分転換は必要よ。私達のこともしてくれてるし。優しい子だけどストレスはたまってると思うの。」

 弟は、まだ親に退職したことを知らせていないらしい。何も知らない母は、休みの日くらい好き勝手しないと体も心も持たないわーなんて呑気なことを言う。
弟がいるとばかり思い、バッグに忍ばせて来た茶封筒の中には1万円。なんだか渡す気がしなくなる。


「そういえば、N恵のとこも受験でまた大変みたいだよ。」

 私が伝える前に、母も伯母から聞かされていたのだろう。
上の子がまた受験をするということ、お金がいくらあっても足りないわねーと他人事のように言った後、


「今、お姉ちゃんのところにN恵の旦那と下の子が泊りに来てるんだって。」


「え?伯母さんのとこに?N恵はいないのに!?」



 てっきり旦那方の実家に下の子はお泊りしているのだと思っていた。
そして、相当コミュ力が高い旦那なんだなと感心すると同時に、伯母さんも母に比べて社交的で割と友達が多いことを思い出した。母は中間子ということもあり、難しい性格だけれど、伯母は長女で姉御肌。はっきりしているが面倒見が良く我慢強いところがあるのだ。


「そうよ。あそこの旦那、人懐っこくってね。N恵抜きでも顔を見せにふらっと寄るし、お姉ちゃんが入院した時も甲斐甲斐しくお見舞いに何度も来てくれたみたいだしね。そうでなくても、普段は病院とかの送迎もしてくれていい婿よ。」


 ーはい、また出ましたね。続きましては、私の夫への嫌味攻撃ですか・・


 思った通り、遠回しにネチネチと夫への嫌味が始まるのだ。
むしろ、それは母の娯楽の一つにもなっているのでは?と思う。娘が動揺し、困惑する姿に、彼女は高揚感をおぼえているのだ。
夫に対しての憎しみを娘にぶつけることが、どういうことなのかこの人は分かっていない。
私に愛情があれば、その板挟みに苦しめようなんて思うだろうか?


「まったく、あんたの旦那もコミュニケーション力がないっていうか。N恵の旦那の話をお姉ちゃんから聞くと、あんたの旦那のことも聞いてくるから隠しておくのも変だしね、現状、伝えたけど。普通じゃないって言ってたわよ。何年も顔も出さないって、非情もいいとこだし、まあ私はあの人に会いたくもないんだけどね。でもあんたも非常識な人間に見られてるんじゃないかって、やっぱり結婚は失敗だったわねってお姉ちゃんも言ってたわよ。」

 確かに夫が実家に来たとして、不愛想にスマホをずっといじり、話し掛けられても聞こえていないというか太々しい態度だ。そういう態度に私も頭を悩ませていたが、性格は治らない。
そして、母だって、婿に愛想よく話掛けるでもなく私を通してという感じで、目も合わせない人見知り。そういう自分を棚に上げて夫を非難するのだ。


「あれでよく仕事してるわよね。っていうか、出来てるのかしら?本当に疑問。嫁の実家に電話一本、ご機嫌いかがですか?の電話も出来ないんだもの。あんたが恥ずかしい目にあってないか心配だわ。花子だって、あんな父親でこの先大丈夫?この間ね、花子に言ったの。勉強よりなにより、人間関係!それが一番大切だって。頭でっかちで人とロクに付き合えない大人になりなさんなって。ばあばは社交的だし人付き合いもうまいから、あなたも私に似れば大丈夫って言ったけど。パパに似たらね、困っちゃうわよね。」


 先日、電話をした時。久々に孫と話したいという母に頼まれ、電話を代わったのだ。
孫にまで、父親の悪口を言う祖母に子はどう思ったのだろう。

 夫にも問題はあるが、母にも問題がある。
こうして陰でこそこそ相手の難点を指摘しつつ、自分は完璧だと思っているのだ。
相手は合わせ鏡ーという感覚がまったくない。
自分と合わない人間イコール、非常識なおかしい人間という図式は私が子どもの頃から変わらない。
だから、数多くのママ友と絶縁して来たし、親戚とのゴタゴタもあり、今では茶飲み友達すらいない状況を、父の面倒で自由にならないから人付き合いも出来ないーとぼやいている。


「そうだね、あの人はおかしい。私も結婚して思うところはあるよ。でも花子の為にもやっていかなくちゃなんないしね。ごめんね、変な人と結婚して。」


 心にもなく、もうこの定型的なやり取りが面倒になり形だけの謝罪をする。
母はそうすれば途端に満足し、優しくなるのを知っているからだ。


「本当、あんたも可哀想ね、心労が絶えないわね。そうそう、美味しいクッキー買ったの。食べる?」


 いそいそとお茶を淹れに行く母の背中に、唾を吐けたらいいのに。
そんなこと、良い子の私は出来るわけないけれど、弟のストレスについては慮ってくれるのに娘に対してはまったくないのだなと残念な気持ちになるのだ。

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