無味のプリン

プリン 仕事
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 24時間待たず、何も手が付かない状況に耐えられず、職場に電話してしまった。
黒川さんが電話に出たので、木佐貫さんに代わってくれと伝えると不在・・
何かありました?と聞かれ、米田さんに代わりましょうか?と聞かれ、それは速攻で断る。

「私の方から伝えておきましょうか?」

 今思えば馬鹿だった。やっぱり木佐貫さんに直接伝えるべきだったのに・・

「実は・・先週、木佐貫さんからコピーを頼まれていた契約書なんですけど、もしかしたらもしかするとなんですけど・・原本を間違えて処分してしまったかもしれなくて。カラーコピーだったので、心配になって・・」


「え・・?そうなんですか?」


 顔は見えないけれど、明らかに(あー、やっちゃいましたね・・)と憐れむような黒川さんの表情が浮かぶ。そう、やってしまったのだ。


「分かりました・・伝えておきます。他には何かありますか?」

「いえ・・すみませんがよろしくお願いします・・」


 昨日の午後、勢いで電話してしまった。
あの後、職場から連絡は特になかった。
報告し、すっきりするかと思ったらそんなことはまったくなく、今度はあの電話の後の職場を思い浮かべて心臓のバクバクが止まらなくなった。
黒川さんが木佐貫さんに伝え、木佐貫さんがパニック気味に米田さんに伝え、最悪、課長や部長を巻き込み取引先に謝罪しに行きー・・改めてまた新しく契約書を作成する?のかしないのか?


「ママ、なんか具合悪い?」

 子が、挙動不審にビクビクしている私に気付き、声を掛けてくれた。
受験で大変な時に、余計な心配を掛けたくない。


「いや、どこも。ちょっと休憩する?冷蔵庫にプリンあるよ。」

「食べる食べるーママもいる?」

「じゃあ、貰おうかな。」


 浮き沈みはありつつも、もうまな板の上の鯉状態の子は、幾分、感情の落ち着きを取り戻したようだ。ほっとするが、一向に気は晴れない。
ふるふると揺れるプリンをスプーンですくって口に運ぶ。つるりとのど越し良くそれは私の体に取り込まれる。だが、味わえない。味がしない。人の味覚は、感情に支配されるのだ。

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