N恵とのランチだが、無い頭を絞って、どうにか嫌な空気にならないよう出したやり方が、食事制限。
持病の件はN恵も知っているので、最近の検査結果が思わしくなかったこと、そしてそれに伴う食事制限がなされていること伝え、だからコースはNGなのだということにした。
すると、案外すんなり受け入れてくれたN恵。
「了解。じゃあ、別の店にしよっか。ここはママと行くよ。」
当日だというのにキャンセルをしてくれた。
後から店のHPを見て知ったが、キャンセル料はしっかり取られたようなので、今度支払うとラインで伝えたら、それは不要ときっぱり断るN恵だった。
店は、グルテンフリーのメニューが看板の隠れ家的カフェレストラン。私は一番安いカレーをオーダー。N恵はチキンのロースト。サラダとドリンクがセットというのも嬉しい。勿論、食後にケーキも食べて、2000円ちょっとだった。取り敢えず、許容範囲。誰ともランチしてないのだ。友達が多ければ、たとえサイゼだったとしても毎週のようにランチすれば、月に3000円くらいいきそうだし。そう自ら納得させた。
N恵はオーガニックワインを飲んでいたが、私はオーガニックコーヒーにしておいた。嘘がばれてはいけない。
「はい、これ。花子に。」
「え?」
「入学、おめでとう。」
差し出された可愛いデザインののし袋。
まさか、従姉妹からお祝いを貰えるなんて思っていなかったし、これまでそうした祝い事は暗黙の了解でしていなかったのだ。伯母さんと実母の間では取り交わされていたけれど。結婚祝い、それでおしまいだった。
「え?いいよいいよ。悪いよ。今までしてなかったし。」
「いいの、あげたいんだから。残念だったかもしれないけどさ。浪人しなくて良かったじゃん。」
え?何も私は伝えてないのに。
なぜか、N恵は全て知っていた。子の大学のことも、志望校に落ちたことも、妥協して滑り止め校に入ったことも。
だが、すぐに腑に落ちた。母が伯母に伝えたのだろう。どう伝えたのか分からないけれど、子の普通過ぎる大学名にきっと伯母もリアクションに困ったはずだ。N恵を薬学部まで出した伯母だから、それなりに受験についての知識は濃い。それに、N恵当人だって娘を小学校受験させて更に上を目指し外部受験させる為に頑張っているのだ。
だが、私もつい牽制するつもりで義実家の嫌な対応をぶちまけた。あいちゃんと常に比較されて子が病んでいたこと、義姉らの学歴マウント、学校名と偏差値で人間の価値を判断すること。黙って聞いていたN恵だが、私が一息にまくしたてると、ぽつりとつぶやいた。
「でも、まぁ学歴があるかないかでいえば、あった方がいいよね。なんていうかさ、勉強出来なくても天才的に何か秀でたものがあるならいいよ。スポーツでも芸術でも話術でもビジュアルでもさ。でも大抵の人は凡人じゃん。横一列っていうかどんぐりの背比べ。そうなると、測れるものー、分かりやすくってなると学歴なんだよね。だって、そうじゃない?性格とか性質とかぼんやりしたものって好き嫌い、合う合わないの個人差あるし。主観的過ぎるし。学歴はきちんと偏差値っていう分かりやすい数値で測れるからさ。」
N恵がお受験ママだということをすっかり忘れ、義実家の文句を言いまくった時間を巻き戻したくなった。分かり合えない、そんな気がする。お祝いもなんだか素直に受け取れなかった。彼女の中でこのお祝いは、すごいね!でもない。よくやったね!でもなければおめでとうでもない。単なる、大学生になれて良かったねーなのだ。
「花子はどうなの?大学生活は楽しんでるの?」
「うん。まだ始まったばかりだから分からないけど。」
「とにかく1年のうちから資格バンバン取って、留学もさせて、人とは違うことさせなよ。周りに流されて遊んでばっかいたら大学は現役でも非正規だったり就職浪人になっちゃうからね。大学名で戦えないなら、そこは頑張らないと。」
グサッとくる。
私自身、短大を出てまともな会社で正社員になったことがない。そのコンプレックスを従姉妹に指摘されたようなものだ。私の頃は氷河期だったから仕方がないーそんな言い訳は彼女に通用しない。
ふっと若い頃、伯母と母、私とN恵でお茶をしていた光景を思い出した。私が短大に入って就活中、N恵は薬科大であと何年も学費が大変だと愚痴を伯母がこぼしていた時。
「でも、生涯年収で取り戻すって。ママが手に職をつけなさいって言ったんじゃない。」
そんなことを言っていたN恵。
私が割と有名な御三家短大だったので、母はいつも娘の大学名を口にする時、「OO大学」と言っていた。(いやいや、4年制じゃないでしょ、短大でしょ)、そう心の中で訂正しているだろう伯母とN恵の微妙な表情までリアルに思い出されてしまい、これがフラッシュバックというやつかーとなんだか目が覚める思いだった。
「大丈夫よ。OO短大なら一般職で銀行や一流企業に入れるから。そこでいい男つかまえなさいよ。」
伯母が笑いながら勇気付けるよう私に向かって放った台詞までリアルに思い出す。
実際、傍から見れば、出会いは合コンだけれど夫は金融系に勤めていたし、割と伯母の言う通りになっている現実。勿論、今は生活に困っているけれど、それは周囲にばれてない。
「今は、昔と違って結婚も大変らしいよ。男が妻に求める条件って知ってる?ただ可愛いだけの何でも言うことを聞く女の子じゃないんだって。経済的に自立していることー、更に、自分と同等に稼ぐ女に需要があるみたいよ。」
N恵とのランチ、親子共々なんだか心配されたというか、呆れられているというか、計画性がないと叱咤されたような気がした。パートのことや夫のこと、勿論、それだけではない楽しい話もしたかったのに。会話の殆どが、この話題。それからは彼女の娘のお受験話。正直、私には遠過ぎる関心の無い話題。どうして子どもを持つ私達世代の女は、子どもの学歴にここまで執着するのか。
午前中、ネイルサロンに行って来たばかりだと言う彼女の艶やかな指先が目に入り、無意識に自分の爪を隠してしまう。食後のコーヒーは、すっかり冷めてしまい、ただの黒い飲み物に成り下がっていた。
フラッシュバック
家族