承認欲求モンスター

鳥 仕事
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 木佐貫さんが休職届を出したという。
子ども関連のことで有給取得が続き、ついにといったところ。部長から休み過ぎだと指摘されたうえに、子どもの学校行き渋りも重なり、理解のない会社にブちぎれたのだという。本当は、寸でのところで退職届を出そうとしていたらしい。だが、米田さんらに説得され、思い留まりとりあえずは休職。しかも2か月。
もう手続きは済んでいるとのことで、彼女のやけにこざっぱりとしたデスクは、何やらちょっとした荷物置きにされていた。
こんなものだ。

「米田さん、木佐貫さんの仕事まるっと引き継いだらしいよ。それもあってあの部長も承認したんだって。有給、いつも取りづらいって木佐貫さん愚痴ってたからね。それにしても思い切ったよね~」

「もう有給も全部使い切ったらしいですよ。どうせ欠勤になるなら休職した方がって思ったんでしょうね。今度付与されるまでもう待てないって言ってました。」

 涼しい顔で黒川さんは答える。なんとなく、このまま木佐貫さんは、子どもが夏休みに入ってからの8月もそのまま休職するのではないかはないかと思う。上司が変わったことで、有給が取りづらくなったうえに残業が増え、これまでの仕事もやりにくくなったようだし、我慢の限界が来たのかも。

「米田さんも大変だよね~。黒ちゃん、何か聞いてる?」


 花山さんが探りを入れるも、彼女は何も聞いていないという態度を崩さない。まるで、木佐貫さんの後釜は自分だと言わんばかりに、米田さんにべったり。米田さんも後輩不在で仕事量が更に増え、明らかに黒川さんを頼っているのが見て分かる。黒川さんが社員昇格という話も、早い段階で実現するかもしれない。

 正直、木佐貫さんではなく米田さんが休職してくれたら良かった。なんなら退職して欲しいくらいで。彼女のパワハラまではいかずとも圧と明らかに私に対する態度はきつすぎるし、彼女がいるから他3人のパワーバランスもおかしなことになっている。もし彼女抜きなら、案外4人でうまくいっていたのではないかーとすら思うのだ。

 
「私もそろそろ考えようかなー。なんか、ここじゃなくてもいい気がしてきた。」

 引き止めて欲しいのか、花山さんが大きくため息をつきながら言うと、年輩の男性社員が目尻を下げ、そんなこと言わないでよーと思うツボ発言をする。それに分かりやすく満足気な微笑を返す彼女。お腹一杯の下りなのだ。木佐貫さんも、退職届を手にしつつも、頭の隅では誰かに引き止められることを待っていたのかもしれない。そうでなければ、誰に相談することもなく退職していると思うのだ。

 辞めたいだの、辞めるだの大騒ぎする人間の大半は、自分の存在価値を他人を使ってはかりたがる。承認欲求モンスターだ。それでいて、あっさりどうぞと言われればパニックを起こし、そんな反応をした人間に対し、冷たいだの裏切られただの言って、逆恨みの感情を抱く。それだけの人間だった自分を受け入れることの出来ない残念な人なのだ。
飛ぶ鳥跡を濁さずー、一番スマートな辞め方は、既に次の職場が決まっている前提で退職願いを出し、引き止めにあったとしても笑顔でかわし、更に引継ぎマニュアルもきちんと作成しているような人だと思う。


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