ピンポンー
ドアを開けると、針金さんが立っていた。
梨の入った袋を差し出される。
「良かったら、これ。たくさん届いてお裾分け。」
夏祭りで子が手伝いをしたことで、また復活した近所付き合い。
猫の件で、ずっと無視され睨まれ、最初の方こそショックだったがそれにも慣れて来た頃のこと。
子のお陰なのか、それとも彼女の気まぐれなのか分からないけれど。
「ありがとう。」
「花子ちゃん、本当によく働いてくれて。助かりました。若い子がいるだけで店も明るくなったし。」
娘を褒められて悪い気はしない。
でもどこかもう彼女のことを信用出来ない自分がいた。
いつまたあの時のように豹変するか分からないお隣に、翻弄されたくはない。
適度な距離感で、感じ良く挨拶をする関係ーそれでいい。
必要以上に親しくなろうとするから、その期待が裏切られた時のダメージが大きいのだ。
夕食後、梨を出したら子が喜んだ。
甘く瑞々しいそれを口に入れた途端、頬から耳の辺りがぎゅっと締め付けられるように痺れた。
あぁもう秋だなと、私の心に少しの余白がぽっと出来た。
季節を運んでくれる隣人ー、針金さんはそれ以上でも以下でもない。それでいい。