なんとか入学式前に美容院の予約が取れ、早速行って来た。
親子揃って同じ美容院。
だが、子が一緒は嫌がるので日時はずらした。
学生カット
子は、「学生カット」のメニュー。
スマホで何度も検索し、なりたい髪型を決めていざ出陣。
校則で、カラーやパーマは禁止なので、カットとトリートメントをして貰ったらしい。
仕上がりは、コテで巻いてスタイリングをして貰ったようで、今時の高校生風。
中学ではずっと一つ結びだったので、おろしているのが新鮮。
調子に乗って、ピアスを開けたい風なことを言っていたけれど、ヘアスタイルから始まって、ピアスにメイクにと、一気に大人の女性へと変貌するかもしれないのだなと思うと、なんだか寂しいような。
子には、ずっと子どものままでいて欲しいと思うのは親の我儘なのだろうけれど。
来店アンケ―ト
店の雰囲気を子に聞いてみたら、いい感じ。
適度に話し掛けては来るけれど、うるさくもなかったらしい。
子も、私に似て人見知り気質なので、初めての店は緊張するらしく、サロンには行きたくても店を変えるのは嫌がっていたのだ。
今回予約が取れた店は、開店してまだ3年未満の比較的新しい店で、全国展開しているチェーンの美容院。春のキャンペーンで、初回は驚く程安かったのが決めてでもあった。
店に入ると、すぐに席に通された。
しばらくして、女性の私よりも年下だけれどベテランらしきスタイリストが、小さなボードを手に声を掛けて来た。
「本日はご来店いただきありがとうございます。お手数ですが、今後の為にカウンセリング兼アンケートをお願いしています。」
ボードの上にはアンケートとペン。
名前や住所など基本情報を記入した後、希望の髪型などを書く欄もあり、口でうまく伝えられない私にとっては助かる。
文章だと、自分の希望を遠慮なく伝えることが出来た。
ー子どもの入学式があるので、華やかにしたいです。
肩につくかつかないかの長さで、白髪も少しだけ明るく染めて欲しいです。
パーマは、かかっているかどうか分からないくらいの、スタイリング剤をつけたらゆるくふわっとする自然な感じでお願いします。
こんな具合に、ぼやっとした注文かもしれないが、私にしては具体的に希望を示すことが出来た。
そして、施術中の過ごし方について。
ー施術中は、
①会話をしたい
②雑誌を読みたい(話し掛けられたくない)
という、なんとも分かりやすい質問。
少し迷って、私は②に〇をした。
そう、自分軸で答えたのだ。
以前の私なら、遠慮して本音を伝えることなど出来なかったのに。
これは、私にとっては大きな進歩。
物静かなスタイリスト
施術中は②の話し掛けられたくないに〇を付けたのが功を奏したのか、私の髪をカットしたのはいかにも大人しそうな女性スタイリストだった。
大人しいけれど、見た目はとてもお洒落。
しかし、どこか私と同じような波長を感じた。
話し方もゆったりと落ち着いており、馴れ馴れしさもなく、あくまで私を対客として扱ってくれた。
「このような感じがご希望でしょうか?」
分かりやすく、タブレット上のヘアカタログの中にあるスタイルを指し、まさに私がアンケートに記入した内容を具現化したようで、きちんと彼女にオーダーが伝わっていることに安堵した。
一通り確認が終わると、彼女は黙々と私の髪をカットし始めた。
時々、鏡越しに目が合うかと思ったけれど、彼女の方も敢えて視線を逸らすというかー、私に気を遣ってというよりは、客と視線を合わすのを拒んでいるようにも見えた。
人によっては、彼女の接客は「不愛想」としてうつるかもしれないけれど、私にとっては有難い対応。
こちらも無理に気を遣って話そうだとかー、また話さないと居心地が悪いという感覚もなく、むしろ気楽。
そして、店長と彼女の会話を聞いていても、私に対しての会話のトーンと一緒なのが嬉しかった。
だいたいいつも落ち込むのは、私以外との会話でトーンが上がったり、楽しそうにしていたりすること。
それが無かったので、あぁ、彼女も物静かだから私だけのせいではないーと、施術中の沈黙を肯定出来たのだ。
カラーとパーマも、黙々と行ってくれた。
隣の客も、私同様静かな客で、またスタイリストも静かだった。
店内は、話し声よりも緩やかなBGMの方が大きく、カラーの最中、つい寝そうになってしまった。
ここに来る前はあんなに緊張していたのが嘘かのように、鏡の前の無防備な私は、この店ですっかりリラックスしていた。
タブレット型雑誌
カラーが馴染む迄の間、私はタブレット型の雑誌を読むことが出来た。
だいぶ前の話になるけれど、まだタブレットなどなく美容院には雑誌が置かれていた時代。
あの時は、読みたい雑誌を求める勇気が無く、ただただ目の前に置かれた、店側が私を見て勝手にイメージして選ばれた週刊誌や雑誌を読むことしか出来なかった。
週刊OOのような、ゴシップ記事しか載っていないような雑誌が目の前に置かれると、げんなりし、悲しくなった。
綺麗になる為に来ているのに、「おばさん」の烙印を押されているようで、そして仕上がりもやはりそれに見合うおばさんになっていることで、お金を払って時間を使って、ただただ気分を下げに来たーというような感じ。
美容院から足が遠のいたのも、コミュ的な部分だけではなくこういう部分もあったのだ。
洗髪の時のあの質問
カットとカラーの後の洗髪。
人とのコミュニケーションは苦手だけれど、この時間だけは至福の時。
洗う側も、いちいち話し掛けて来ないし、何しろ薄いペーパーを顔の上に乗せられる。
今ならマスクもあるので圧迫感はあるにしても、顔が見られていない安心感がそこにはある。
「痒いところなど、ありませんか?」
この質問に、「はい、右耳の上が痒いです!」なんて正直に言えたらなんて気持ち良いだろうと思う。
実際は、我慢する。
とっても痒いが、我慢する。
なんていうか、痒いなんて言ったら迷惑だろうなーとか、不潔だと思われるだろうなーとか。
以前、どこかのテレビ番組で統計が取られていたけれど、関西人はこんな時きっちり痒いところを伝えて掻いてもらう人が多いらしい。
ー私も関西人に生まれていたら、思い切り掻いて貰えたのに・・
もみあげあたりが猛烈に痒かったけれど、言えないまま洗髪は終わり、この時ばかりは不完全燃焼。
合わせ鏡越しの確認
丁寧にドライヤーで乾かしてスタイリングをしてくれた。
何ねんぶりの美容院。
カットにカラーにパーマ。
それなのに、新規ということでものすごい割引をしてくれた。
夫から貰ったお金で十分足りた。
仕上げに、もう一度前髪をちょっとだけ手直しカットし、スタイリストは鏡を持って来た。
私の後頭部にそれを向け、合わせ鏡のような形で私に確認を求めた。
この時のリアクションも、いちいちいつだって気を遣って来た。
気に入らないーという表情を出さず、引き攣りつつもにっこり笑顔を作る。
しかし、今回は違った。
自然と笑みが出た。
白髪だらけだった髪はすっかり若返り、計算し尽くされたプロのカットにパーマ。
一言でいえば、垢ぬけた。
自分が自分ではない感じ。
「わぁ!ありがとうございます!」
美容院に来たのは何年振りだが、美容院で心からこんな言葉が出たのは人生初かもしれない。
大当たりの美容院。
思い切って、来て良かった。
次の予約
会計時ー、次の予約を聞かれた。
何も気にせず、予約を取りたい。
しかし、実際そんなことは出来なかった。
初回だからこその価格ー、次からは適用されない。
実際、今日のようなメニューをオーダーすれば、2万くらい掛かってしまう。
無職の私には贅沢な話。
今回は、入学式があるから特別。
ただ、またこの店に来たいーそんな美容院が出来たことが嬉しかった。
頑張って仕事を見付け、初給料でまた来よう。
そんな目標が出来た。