イブの夜

プレゼント
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 夫と過ごしたイブの夜。
思った通り、食事内容だけがクリスマスであとは通常通り。
特に、頑張って作った料理を褒めるわけでもなく、黙々と食べている。
夫婦の会話―何か話さなくてはと気にするのも私だけ。
家の中の静けさに居心地の悪さを感じているのも私だけ。
夫は特に気にするでもなく、スマホをいじりながらのんびりとした夜を過ごしていた。


「吉田さんは、どう?いつ戻って来るの?」


 そんな沈黙をどうしても破りたくて、ずっと気になっていたことを尋ねる。
夫の表情は酒を飲んでいることもあって読み取れないけれど、ぽつりと小さく呟いた言葉にこっちのほろ酔いはすっかり冷めた。


「辞めるかもな。年度内には。」


「え?戻らないの?」


「親御さんの病状が良くなるどころか悪くなる一方らしくて。彼女、長女だからな。色々背負ってるもんがあるんだろう。」


 夫が淋しそうな顔をした。
それが私にはなんだか辛く、この感情に名前をつけるとしたら嫉妬でもない、もっともっと違うやり切りない感情。どうにもならない感情だった。


「あなたにも、ちょっと色々迷惑掛けることになるかもしれないな。」


 珍しく弱気なその言葉と共に、夫が私のグラスにワインを注ぐ。
なんだか素直にそれを飲むことが出来ない私は、妻失格なのか。
イブの夜、ワイン1本空けたのに、まったく酔えない私がいた。



 

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