義父の快気祝いーそして、あいちゃんのコンクールと子の合格祝いを兼ねての食事会へ行って来た。
久しぶりの義実家フル集合は、憂鬱で気が重いだけのもので、帰宅後は疲れ果てて10時間も眠り続けた。
店のセッティングは長女
ホテルの最上階レストラン。
義母もリハビリを頑張っているお陰か、車椅子から今では杖があれば少しの距離なら歩けるようにもなり、以前のような生活は難しいとしても、タクシーなど使えばこうしたお出掛けも出来るようになった。
近所の友達も日替わりで遊びに来ているそうで、やはり一番のリハビリはそういったコミュニ―ションなのだと思う。
友達がいなければ、そのまま認知症になっていたかもしれない。
長女一家がよく利用している店なのだろう。
着席すると、すぐにシェフが挨拶に来た。慣れた様子でシェフと会話を交わしている長女夫婦。
前菜とお酒が運ばれ、乾杯。
義両親はまだ飲めないのでノンアルコール。
夫や義兄弟らは杯をあげる。私はまったく飲みたい気分でもなかったけれど、周囲に合わせてシャンパンを口に含んだ。
義父が、皆に心配を掛けて済まなかったと詫びた。
いつものような、義実家でのどんちゃん騒ぎはなく、粛々と会食は進む。
居心地の悪い会話
義両親の体調面や今後気を付けなければならないことなど、一通りの話が済めば、あいちゃんの話。
義家族は、誰もが彼女の功績を称えながら杯を重ねる。
子は、入店してからだんまり。ただ黙々と食事を口に運ぶだけ。
なんだかその姿が痛々しく、私も豪華な食事を前に感動を味わう余裕すらなかった。
会ってからも入店してからも、一度たりとも我が子に祝いの言葉を掛けてくれる者がいなかったのだ。
ただ、隣にいる夫も私と同じ気持ちなのか、いつもより静かだった。
子を通せばー、私達はやはり夫婦。父親であり母親なのだ。
そんな私達家族の心中などお構いなしに、義家族は盛り上がる。
「好きなことを仕事に出来たら、いいわよね。うちも、薬学部で病院に行くと思っていたけど。今の仕事が楽しいって。好きだから頑張れるみたいよ。」
姪は、薬学部を卒業した後、薬剤師になるのかと思いきや方向転換。
化粧品メーカーに就職した。誰もが知る大手ではないことに難を示していた長女だけれど、娘が生き生きと働く姿を見ているうちに考えが変わったらしい。
病院は医大に通っている息子がいずれ継ぐのだろうし、末の次男もいるのだから余裕があるのだろう。
「お姉ちゃんのところみたいにお金にならないかもしれないけどね。」
血の繋がった姉妹感であっても、こうして謙遜してみたりするのだろうか。
なんだか目に見えないマウント合戦を見ているようで、しかしそのリングにすら上げて貰えない我が子が不憫に思えた。
大人ばかりが会話をして、子ども達は置いてきぼり。
なんていうか、微妙なのだ。
あいちゃんも、皆から褒められ手放しで喜ぶ年齢は過ぎたのか、持ち上げられ過ぎることに、若干居心地悪く感じているようだった。
大人が会話をする流れで、子どもに時折話を振り、それに子どもが答える。
ただ、一番上の長女方の姪だけは違った。
私の記憶では反抗的な態度ばかりとっていた姪ー。
あの頃は、きっと色々な意味でブレていたのだろう。
社会人になり、変わった。
目標が定まり、それに向かって突き進むのみ。
もうすっかり大人、そして充実した今を送っているのがそのオーラで分かる。
「好きなことした方がいいよ。私も散々悩んで今の道に進んだけど。やっぱり好きだから頑張れるし。」
調剤の道に進まなかったことに後悔はないらしい。
私も子も、そんなキラキラした会話に付いていけず、ただフォークとナイフを動かすことに集中していた。
一人っ子下げ発言
「で、花子はこの先どんな道進むの?」
突然、次女に会話を振られ、子の目が泳いだ。
「え。別に・・」
「好きなこととか、あるでしょう?高校だって、やりたいことがあって決めたんじゃないの?」
自分の娘がそうだからってー、誰しもが目的意識を持ってそれに突き進んでいる訳ではない。
彼女の想像力の無さに苛々が募る。
「大学はどうするの?高校の進学率はどんな感じなの?」
長女までー。
子が行く高校名は知っているだろうし、きっと既にリサーチ済みだ。
なのに、こうして皆が揃っている前で酷な質問をする。
子は、何て答えたら良いのか分からず苦笑いを浮かべるだけ。
これ以上、やめて欲しいー
「将来、どんな道に進むかもう決めてるの?」
三女までー。
叔母3人から矢継ぎ早に質問をされ、戸惑う我が子を見ていられない。
「やっぱり、一人っ子はこれだから。競争心が無いってのもね。」
「上か下に兄弟がいたらね、比べる対象が無いと、どうしたってぼんやりしちゃうよね。」
「一人っ子は親も甘やかすから。」
一人っ子だから‥一人っ子・・・・・一人っ子・・
彼女らの声がうざったいくらいにこだまする。
世の中の一人っ子、そしてその親を敵に回すような発言。
あり得ない。
それに、子どもすら産んだことのない三女がそんなセリフを吐くことにすら嫌悪感が湧く。
あんただって、独身だからーなんて言われたらどんな気持ち!?そう返したくなる。
今のご時世、むしろ子どもを産むことすら躊躇する既婚者も多い。
また、先を考えたうえで一人っ子を選択している夫婦だって珍しくない。
時代錯誤もいいところ。
一人っ子という括りで子どもの性質を決めてかかる義姉らに対し、言いようのない怒りが込み上げる。
「いい加減にしてくれよ!花子だって困ってるだろう!?」
その時ー、驚いたことに夫が声を張り上げた。
その場は見事に凍り付いた。
出来が悪くても我が子は可愛い
夫が怒鳴ったことで、義姉らはようやく度を越した発言だったことに気付いたのだろう。うってかわって私達を腫物のように扱い始めた。
「ごめんごめん、そうだよね。まだ合格して間もないのに。」
「部活、またテニスするの~?」
「制服、可愛い?」
当たり障りのない質問になり、それはそれで取って付けた感満載でげんなりしたけれど、子は一つ一つの質問に真面目に答えていた。
夫も義姉らを黙らせたことで満足したのか、何事もなかったかのように義兄らと会話を始めた。
これぞ、末っ子長男というポジション。
だが、取り残された私のポジションはいったいどこにあるのか。
義姉らの視線が痛い。
ぎくしゃくしたままサヨナラ
デザートが終わり、私もほろ酔いになったところでお開き。
次女がまた私に向かって自分語りを始め、いよいようんざりした頃だった。
気になったのが、子が斜め前に座るあいちゃんとまったく会話らしい会話をしていなかったこと。
お互いなんだかよそよそしく、それが大人の作り出したものだとしたらなんだか悔しい。
あんなに仲良しだったのに。
あいちゃんはあいちゃんでどこか遠慮したように見えたし、子は子の方で複雑な思いを抱いていたのかもしれない。
そんな姪2人の気持ちに気付きもしない義姉らは、内輪の話で盛り上がっていた。
そして、今回の主役でもあった義父は、食事中も義母のことを気遣い、まったく楽しめていないようだった。
義姉らがー特に、次女が企画したこの会食は、ただただ自分の娘を派手に祝いたいもの。
そんな風に受け取った私がひねくれているのかもしれないけれど。どうしたってそう思ってしまうのだった。