コミュ力発揮

カート 生活
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 パート帰りにスーパーに寄るのは既に日課。
疲労困憊の中、長蛇の列に並ぶ。
何人並んでいるのかー、レジは全部で10台あるのにたったの2台しか稼働していない。
なので、ざっと15人程並んでおり、しかも皆、かご一杯の食材。
ぼーっとしていたら、目の前に針金さん。こちらには気付いていないようで、そのまま私の並ぶ列の一番後ろに並んだようだった。
このまま気付かない振りで挨拶スルーだなと思い、スローペースにレジ打ちをしている店員をじっと見つめながらも意識は後方に向いていた。

「あ~、何なのこれ。すごい並んでるじゃないの。」


 年金暮らしのような、高齢女性が文句を言いながら横切った。
苛つくのも分かる。ものすごい列だ。
すると、そのお婆さんは商品の陳列をしている若いバイトの女の子に声を掛けた。


「ちょっとあなた、この列どうにかならないわけ?」

後ろの方で苛々をぶつける。女の子は困った声で、


「申し訳ありません・・」


 謝るしかないようだ。だがそれでは引き下がらないお婆さん。


「ちょっとあなた、偉い人にレジ増やせって言ってきてよ!なんで二列しかやってないの?こんなに人が並んでいるのに、みんな困ってるって言って来て!!」


「いや、あの・・私は担当じゃないのでどうすることも・・」


「だーぁかーぁら!!ただ私が言ってることを伝えればいいのよ。難しいことじゃないでしょう!?」


 可哀想な女の子は押し黙ってしまった。すると、


「本当に、困りますよね~。この時間帯、人が多いのに。」

 針金さんの声が聞こえた。
お婆さんは、仲間を見付けたかのように苛立ちの中に喜びを含んだ声で返す。


「でしょう!?本当に、気が利かない店よね。ほら見てよ、これしか買わないのよ。なのにこんなに並ばされてさ。買い物するより時間がかかるのってなんなのよ一体!!」


「そうですよね~。普通なら言わなくてもレジ増やしますよね。人手が足りないんでしょうね。素敵なマフラー。手編み?」

「そうそう、手編み。毎年編んでるのよ。ボケ防止でね。」


「売り物みたい!色合いもいいですね~」

「そうでしょう?友達にもプレゼントしてるの。孫にもね。」


「お孫さん喜ぶでしょう。」


「そうね、今年はまた寒いしね。それにしても遅いわね、あのレジ。」


「本当ね、2台しかないし大変そう。私だったら倒れちゃう。」


 お婆さんの気持ちに寄り添いながらも、店側への配慮も忘れない。そして何となく気を逸らす話題を良い感じで投げる。



「並んでるこっちも苛々して頭に血が上るわ。あっはっは(笑)」


「本当!この年になるとカッカ来るだけで寿命縮むものね。うふふ。」


「あぁ、やっとここまで来たわ。」


「買い忘れ、ない?ここで列抜けるのは嫌よね。」


「本当よ!そうなったら本当に頭に血が上るわ。あっはっは(笑)」


 背後から、楽しそうに笑う2人の声。列に並ぶ他の人達も、やれやれと言わんばかりに耳を澄ませているようだった。
あんなに悪態をついていたお婆さんが、最後には笑っているのだからすごい。
針金さんのコミュ力はどんなトラブルメーカーさえも沈静する力があるのだ。
だが、敵に回すと恐ろしい。こういう人はきっと面倒な人間のストレスを吸収し、どうでもいい人間に放射する。
すごい人だけれど、あの一件があってから、私にとっては厄介な人なのだ。



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