能力の差

コップ 仕事
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 同期の花山さんは、とても出来る人だ。
比較したってしょうがない。
上司である米田さん(女性面接官)が、やたらと彼女を褒めることで劣等感を感じてしまう。

「これは、結局こういうことですよね~。勝手にやっちゃいました(^^♪」

 一見、仕事が出来るタイプに見えないのは、可愛らしい声と雰囲気と話し方。
だが、実際は指示された以上に働き、そして処理速度も速く正確。



「終わりました~。次、何かやることありませんか~?」


「もう終わったんですか!?早い!すごい!」


 彼女の業務日誌は私のそれとは違い、米田さんか設定したタスク目標時間より早く終わるようだ。
そして同期入社だというのに、次から次へと新しい業務を教わり覚えている。
3日目くらいまでは、私の進度に合わせる形で2人揃って米田さんや木佐貫さんから指示を受けつつ教わっていたけれど、今では米田さんが直接花山さんを指導し、木佐貫さんが私担当というような流れになっている。
木佐貫さんは米田さんのような厳しさはないけれど、説明が分かりにくい。
彼女自身はすべての業務は頭に入っており、米田さんとあうんの呼吸で多くの業務をこなしているようだけれど、分かっているからこその分からない人間への説明が下手なのだと思う。


「花山さん、飲み込み早いね!」


 キツイ感じの米田さんだが、花山さんににこりと笑顔を向ける。
こんな時、私はなぜか自分が必要以上に責められている気がするのだ。
肩身が狭い。

とにかくミスのないように。
落ち着いて、花山さんと私は違う。
家でも自分で作ったマニュアルノートを見返し復習している。
昼休み、花山さんはメモを取るのが苦手と言っていた。
メモを取ると書くことに満足して頭に入って来ないのだそうだ。
メモは無いというプレッシャーを自分に課して、だからこそ全集中で先輩の説明を聞くから記憶に残るのだと言う。


「学生の頃、テスト勉強もそんな感じだったよ~( ´艸`)」

「頭に入るのがすごいですね。私には真似出来ません。」

「私は芝生さんみたいに真面目じゃないから。字も汚いし。だから自分のノートとか見返す気がしないし、文字書くの疲れちゃう。芝生さん、字、綺麗だよね!」


 字を褒められたけれど、まったく嬉しく無かった。
褒めるところが無いから仕方なくといった感じだったし、私の字は子どものような丸っぽい字なのだ。
駄目だ、彼女に対して僻みの感情が湧く。
こんな時、自分のことが嫌いになる。


 能力の差については、物心付いた頃から思い知らされて来た。
園児の頃は、隣の席の子が先生の見本通りにサクサク折り紙をするのを横目に、山折りと谷折りの意味が分からず茫然としたし、小学校の頃は割り算に苦戦し、授業後の休み時間、先生に付きっ切りで教わっても理解出来ずべそをかいた。
生まれ付き、飲み込みが遅いのだ。


 仕事中、お菓子を食べながら余裕の彼女。
大欠伸しながらキーボードを叩いている。


「お腹一杯になったら眠くなっちゃったぁ~。目薬持ってくれば良かったぁ~。」


私なんて、お茶を飲むタイミングさえつかめないくらい追い立てられながら業務をこなしているのに。
能力の差とは分かっていても、結構きつい。





 
 



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