本採用の洗礼

ミーティングルーム 仕事
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 本採用での初出勤。
昨日は早速、その洗礼を受けた。
朝礼終了時、リーダーが皆の前で私を呼んだ。

「芝生さん、ちょっとこっちに。」


 皆の視線が集まる中、リーダーの元へ行くと「一言」を促された。
ただこれは想定内。
もしかしたら挨拶をしないとならない場面があるかもーと、言葉を用意していた。
それでもいざその時がおとずれると、心臓はバクバク音を立て、もう逃げられないーというプレッシャー。
しどろもどろながらも、なんとか挨拶を終えて席に戻る。
前回の面談の時に手渡された「雇用契約書」に自分の割り印を押印したものをリーダーに渡した。
私の控えは、退職願とセットにデスクの引き出しにそっとしまった。

 中山さんからの仕事に取り掛かる。
やっぱり、難しい。
勇気を出してチャットで質問をすると、スプレッドシートをもう一度確認してくれと返って来た。
私が作業したシート内に、中山さんが入力したと思われる訂正ーそれに説明がでかでかと赤字でありギョッとする。
心臓がまたバクバクと音を立てる。内容が頭に入って来ないのだ。
意味が分からないー

あぁ、やっぱり辞めたい。
ついさっき挨拶をしたばかりなのにもう辞めたい。
吐きそうになりながら、自分なりに彼の意図を解釈して作業を始める。

ーこの仕事はね、新人のうちは質問することが仕事ですからね。分からないことがあれば、自分で判断せずに遠慮なく聞いてください。質問し辛い雰囲気の時もあるかもしれませんが、そんなのは無視して。あなたの仕事は図々しいくらいに質問することです。


 先日の面談時、人事部長がそう言っていたことを思い出す。
隣にいたリーダーは笑って聞いていたけれど、肯定はしていなかった。

人の良さそうな部長。
ただそれは現場で働いていない分、他人事のような、理想論でしかない。
それが出来れば苦労はしない。
だが、本採用となった今、辛くてももう一歩進まなくてはならないとも思う。

ーお忙しいところすみません。お手隙の時に、お時間いただけませんか。直接、聞かないと分からないことが色々とあります。


 中山さんにチャットで送った。
すぐにチャットが返って来た。

ー分かりました。あと5分したら時間を作ります。

 きっかり5分後、中山さんは資料とノートPCを手に、ミーティングルームに来るよう私に声を掛けた。
そこからは、30分程時間を掛けて説明をしてくれた。
苛々してるなと思う場面もあったけれど、彼の顔色を見て分かる振りだけはやめようと決めていたので、私もしつこく分からない部分については何度も聞いた。
そして、メモを取りながらそれで終わりにするのではなく、もう一度自分のメモを彼の前で復唱しながら「そういうことですよね?」と確認を取った。
彼の表情は見ないようにした。見れば自分が怖気づくことは分かっていたから。

「そんな難しいことじゃないですよ。」

 小馬鹿にされたような気もしたけれど、どうでもいい。
彼らにとって簡単なことは私にとってそうではないーそれを知って欲しい。知った上で採用されたのだと思いたい。

「また間違えだらけで中山さんにご迷惑を掛けたくないので。お時間取らせてしまってすみません。」


 彼は、私が必死でメモを取る間、伸びをしながら大欠伸。
小川さんとは大違いだけれど、色々な人間がいる。
それが、社会だ。

 今日は、休み。
N恵から久しぶりにランチに誘われたのは先週のこと。
彼女も休みだというので、会うことになった。
プライベートで誰かと外でランチなんて、いつぶりだろう。
楽しい話ばかりではないかもしれないけれど、気分転換になればいいなと思う。


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