入学式

ダーツ わたし
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 残念ながら晴天には恵まれなかった入学式。
それでも真新しい制服に身を包み、新しい門出を向かえる我が子が誇らしく、この子の母親で良かったと心から思う。


クラス発表の緊張感

 子も、私同様にクラス運が悪い。
例えば、仲良しと一緒になれないのはもうデフォルトで、更に苦手な子と一緒になったり。
同じグループだったメンバーが皆同じクラスで私だけ別のクラスだったり。
そんな運の悪さでまた一から友人関係を築かなくてはならない労力は女子の世界では並大抵のものではなくて。
なので、私まで子に釣られてナーバスになってしまうのだ。
会場に到着すると、受付で配布物が渡された。
子は、新クラスが書かれている用紙を手に、これから1年間を共に過ごすクラスメイトの列へ。
私と夫は保護者席へ。
そして、つい聞いてしまうのだ。

「知ってる子、一緒?」

「・・最悪。違う学校の人ばっか。」

子も、友達と一緒のクラスになろうと高望みしている訳ではない。せめて、話せる顔見知りがいたらーと。
残念なことに、叶わなかった。
正確に言えば、同中の子は数人いたらしいのだけれど、一度も同じクラスになったことがなかったり、また関わり合うこともない男子だったりと、とにかく気軽に挨拶が出来るような子と一緒ではなかったということだ。



友達の作り方

 今は、入学前からSNSでやり取りをし、会ったことがなくても親交を深め、実際入学式当日に顔を合わせ友達になるーなんてパターンが多いらしいけれど。
子は、そういう対策を取っていたのだろうか?
あんまり子の交友関係に首を突っ込むと煙ったがられるだろうし、まして高校生。親に友達が出来るかどうかなんて心配されたらプライドも傷付くだろう。
そっと見守るしかない。
良い出会いがありますようにー

 一番は、当たりの出席番号であるように。
だいたい、前後左右の子と話すきっかけは作られる。もしかしたら、子と同様に知り合いがいない状況で心細く思っているかもしれない。
ちょっとしたきっかけー
落とした消しゴムを拾うだとか、配られたプリントで分からないところを聞いてみるだとか。
そんな些細な出来事から、うまくいけばぐっと距離を詰められるかもしれないのだ。
特に女子のグループ作りは勢いが大事。
初日で決まることも多い。
また、子の入学式は金曜だったので、土日を挟む。
この土日が大きい。
初日に一人でも話せる人が出来たら、インスタやラインで繋がることが出来、また休みの日もその関係性を繋ぐことが出来る。
月曜になって関係性がリセットされる心配もないだろう。


呼応の時間

 開会の言葉が始まり、生徒が入場。
子の姿を目で追う。いささか緊張した面持ちで私の前を通り過ぎる我が子。
国歌斉唱、校長が入学許可宣言。許可ーという言葉に、義務教育ではないのだなと身が引き締まる。
そして、校長の言葉から始まり新入生代表の挨拶、そして担任紹介、校歌斉唱はまだ歌ったこともないので、録音されたものが流された。

「俺、もう行くわ。」

 卒業式の時と違い、あっさりとした入学式。
夫は式の途中で仕事もあるので退席してしまった。



閉じ込められた会場でのPTA役員決め

 式が終わり生徒達が退場すると、学校側から諸手続きについての説明があるという。
生徒達はHRもあり、その時間が1時間以上取られていた。

「では、クラスごとに説明がありますので、お子さんのクラスの列の空いている座席にお座り下さい。」

 教頭が言うので、その通りに着席して指示を待っていると、首からIDカードを下げた保護者達がぞろぞろと体育館に入って来た。
私の両隣に座っていた保護者が、そそくさと立ち上がりトイレにでも行ったのかと思ったけれどー戻ることはなかった。
そう、その場に残った保護者ははめられた。
彼らが首から提げていたIDには「PTA」と書かれており、その瞬間、全てを悟った。

「それでは、学校側の説明会の前に、PTAからお願いがあります。お子様のクラスごとに座られているかと思うのですが、各クラスで4名PTA役員を決めなくてはなりません。勿論、立候補で決まれば早いのですが、もし決まらなければくじ引きをしていただくことになります。」

ー終わった・・トイレにでも行く振りで逃げた両隣の保護者が恨めしい。そして、学校側からの説明なんておまけのようなもので、恐らくこちらが「本題」なのだろう。
ここに残っている保護者は皆、内心「騙された」と思っているに違いない。







「では、まず役員の仕事について現役員の委員長から説明があります。ご質問などありましたら遠慮なくお願いします。」

 小学校や中学校と同じように、高校のPTAにも本部の役員会があり、また専門委員ー「成人」「広報」「交通」「学年」の4つの委員会から成り立っている。
しかも、高校では3年間の任期。なので、この入学式の右も左も分からない状況の中、いったん引き受けることが決まってしまえば3年の任期を守らなくてはならない。
そして、交通費なども出ない。子が通う高校は、最寄り駅から数駅程度だけれど電車を使う。
自転車でも行けない距離ではないけれど、やはり実際通うとなると電車だろう。
なので、自腹で交通費を掛けて3年間ーそりゃあやりたくないと思う者が大半を占めているだろう。

「それでは、どれかの役員、引き受けて下さる方いらっしゃいますか?」

 愛想の良い笑顔を振り撒きながら、現役員が私達の方に視線を送る。
一同、沈黙の時間。
隣のクラスでは拍手が上がっている。
当たりのクラスでは、自ら立候補をしてくれる奇特な者が数人いたり。
あちこちのクラスから拍手が聞こえ、ただただ羨ましい。

ー誰か、立候補して。

「えっと。くじだと役員は選べません。引いたくじで決まってしまいます。ちなみに交通は楽ですよ。」

 現役員の言葉に、突然立候補した女性がいた。

「じゃあ、交通やります!」

すんなり決まり、拍手が起こる。私も上の空で手を叩く。少しだけ立候補していたら良かったかもと思う。

「広報は、写真が取り放題ですよ!子ども達の行事でも親の見学が認められないものも多いんです。でも、広報委員ならどんな行事でも取材ということで立ち入ることが出来ます!」

「成人は、青春時代に戻れますよ!文化祭で豚汁を作ったり、保護者お揃いのTシャツを着て和気藹々と活動しています!それに、子ども達の様子も見れますよ~高校にもなるとなかなかお子さんと会話が無かったりもするかと思いますが、委員をすれば共通の話題も出来ますし。本当にお勧めです!」

「学年は、その名の通り学年での活動になります。なので、同学年の保護者同士、知り合いも増えます。そして、この役についてはクラス1名でなくてもお友達とやりたいのであれば2名でも3名でも立候補して下さって結構です。学年で定員はありますので早い者勝ちですよ~」

「はい!学年やります。」

「私も、学年で。」

 私の前、隣同士に座っていた保護者ー恐らくママ友同士なのだろう。
2人同時に立候補で即決。

「まあ、一緒に頑張ろう~」

「うんうん、頑張ろう~」

 知らない面子と役をやるのなら、気心知った者同士で引き受けるのが得策だと思ったのだろう。
そして、広報と成人が残った。
周囲からひそひそ声が聞こえる。

「どうする?くじになりそうだね。」

「でも、成人は大変そうだし。広報もパソコン出来ないから無理~」

 子の都立高校は、地元でも文化祭が割と有名。
なので、それを取り仕切る成人は大変なのだと思う。私も絶対やりたくない。
そして広報。
過去の広報誌が入学前の説明会の際に配布されたのだが、とてもクオリティの高いものだった。
しかも、年に3回程発行するという。
小学校や中学校でも確か2回程度だった気がする。

「どなたか、いらっしゃいませんか~?・・・となると、残念ですがくじになってしまいます。」

 気まずい沈黙。だが現役員はそんなの想定内なのだろう。慣れた手付きで準備していたくじを取り出し、列の先頭から回していく。
ぱっと見、30本程度の割りばしが容器の中に入っており、その中で当たりは2本。
次々と流れるように、保護者達は割りばしを引いていく。

ー誰か、当たりを引いて!!

 祈るような思い。
そして、私は座席の後方に座ったことでくじが回って来るのはほぼ最後。
残り5本程度になってから。
どんどんと当たりの確立が上がるのだ。

「よかったー!」

「危なかった~」

 次々に、喜びと安堵の混じった声が聞こえる。
一向に当たりくじが出ない。

「えー、おかしくない?怖い怖い。あ!良かった~」

「嘘でしょ~?なんで出ないの?」

 現役員も苦笑い。

「おかしいですね。うーん。あ!すみません、ちょっと空くじが多かったかも。」


 私の少し手前でそれに気付き、ハズレくじ数本を抜き取った。また当たりの確立が上がるではないか。
そんなの不公平!

「すみません、不公平ではないですか?今日ここにいない人はくじ引きませんよね!?」

 くじを回され引く前に、いちゃもんをつける保護者。私も大きく同意。
ただ、彼女や私の他にくじを引かなくてはならない者はあと7名とわずか。もう引いた者達にとってはどうでもいいクレームだ。

「そうですよね。確かに不公平だと思います。ただ、こうしてここに残って下さった真面目な方々が学校や子ども達を支えて下さっているのも事実です。」

 やんわりそう返され、彼女は渋々くじを引く。当たったらどうするのだー?と思いつつ、色の付いていない棒を引いた彼女は安堵の表情。

ーもう、当たる予感しかない。どうしよう。

心臓が早鐘のように打つ。当たったら最後ーそして確率的に当たる気しかしない。
くじを私に向ける現役員。4本だ。この4本のうちに当たりが2本。二分の一の確率。

えいや!と棒を抜く。
棒の先端に赤色を認めた時、絶望感となんで私がという気持ち、そして周囲から起こった拍手の音が薄い膜を貼ったような遠い世界の出来事のようで、体中から力が抜けた。



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