私の実家と夫との距離感

距離 家族
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 子が高校進学という節目を迎え、実母なりにたった一人の孫を祝いたい気持ちになったのか、遊びに来いと連絡があった。
子は、家族団欒の夕食時、

「今度、ママのばあばの家に遊びに行くんだ。」

と夫に伝えた。
しまったーと思った時は遅かった。

「俺も行くわ。」

ーえ?嘘でしょ?


実母は、子と私を誘ったつもりだったのに、なぜだか夫が一緒に行くと言い出した。
こんなことなら子に口留めしておくべきだった。



母が夫を気に入らない理由

 そもそも、母は最初から夫のことを気に入らなかった。
一番は、夫の家族構成。
長男末っ子、そして姉が3人。この時点で生理的に受け付けず、何度も結婚を反対された。
それは、将来的に私が義実家に吸収されてしまうということ。
長男の嫁という縛りによって、自分達の扱いが疎かになるだろうということ。
それは、母にとって十分な反対理由だった。

 第二に、義実家に対する謎の対抗意識ー言い換えると、義母に対して。
今は義母が脳梗塞で倒れたことによりその意識は薄らいだけれど、まだ元気だった頃の義母にやたらと対抗心を燃やしていた。
パートだけれど税理士事務所で現役で働いていた義母。職場では慕われ、また近所に友達もたくさんいたし趣味も多かった。
アクティブにテニスをしたりお茶やお花、それに歌舞伎鑑賞だとか。
経済的にも余裕があり、そして娘3人のうち1人は結婚せずに同居、残る2人も自転車で行き来出来る距離に住んでいる。
その限りなくリア充ともいえる環境が羨ましかったのだろう。なりたい自分の老後生活を、義母はすべて持っていた。
そもそも私達の結婚が決まった顔合わせの食事会で、義母のまとう「生粋のお嬢様的オーラ」が母にとっては鼻に付くものだったに違いない。

「あんたも苦労するわよ。あのお母さん、一筋縄ではいかないから。」

そんな一言が今も鮮明に思い出される。

 第三に、夫の性格。
夫はとにかく私の実家に対して横柄だ。
昔も今も変わらず、妻の実家だからーといって愛想良く振舞うこともなければ気を遣うこともない。
結婚して最初の数年は正月になれば皆で私の実家に挨拶に行っていたけれど、とにかくずっとスマホ。
父が気を遣って話し掛けても、にこりともせず、スマホに視線を落としたままの生返事。
母の用意した料理を、黙って黙々と食べるのみ。
酷い時は、スマホを見ながら箸を運んでいた。
それでも、あの強気な母ですら、何度か夫に話し掛けていた。
母なりに、精一杯の歩み寄りだったに違いない。それでも夫は応えなかった。
話し掛けたのが3回だとしたら、2回は聞こえていないのか聞こえているけれどうざったいからなのか、スルー。完全無視・・
私がそれに気付いて慌てて夫の代わりに答えたり。
返事をしたとしても、無表情で面倒臭そうな感じで、「はい」「いいえ」くらいの短い返し。
しかも打ち切りの。なので会話が続くわけもない。
 見るに見かねた弟が夫に話し掛けても、やはり同じ対応。
夫は弟に対してはいまだに親にすねかじりをしている駄目なヤツ認定しているのか、退屈なのをアピールするかのような大きな欠伸。
もう、救いようがない。

 これが最初だけで、数年経てば夫も変わるかもーと期待したけれど、ますます酷くなる一方。
母が怒り心頭になるのも無理はない。

 「あの人はもう連れて来なくていいわよ。あんたと花子だけ来れば。」


 さすがに本人に向かって怒りをぶつけるまではないけれど、私と2人になれば、待ってましたといわんばかりに婿の悪口大会が始まるのだ。

 「あの態度はないわよ、お父さんをバカにしてる。普通は婿の方が気を遣ってこっちに話し掛けたりするものよ。ふてぶてしい!あれでちゃんと仕事出来てるの?社会に通用しないわよ。あんたもあんな夫じゃ恥かくわよ。」 

 正直、母の怒りの爆発っぷりに引きつつも、私も同じように思っていたのでフォローしようもなかった。
私がなんとか間を持たせようと、父と母だけでなく夫も分かる話ー共有出来るネタを探して場を繋げ、また夫に話し掛けてみたりもするが、反応が薄いし、もう手も足も出ない状況。
最後の手段で、我が子のネタを皆で共有しようと、会話の中に夫を入れようとしても生返事。
相変わらずスマホ。
そんな救いようのない夫ー、母が拒絶する夫が、突然一緒に私の実家に行くと言い出したのだ。



 

NOと言えば言う程執着する夫

 面倒ごとはもう懲り懲り。
母に夫を連れて行くなんて言ったらどうなるかー、そして、夫が私の実家に来たところであの態度が変わるとは思えない。

「あなたも仕事忙しいでしょ?大丈夫、私と花子で行くから。」

「いや、俺も行くよ。最近行ってないし。っていうか、引っ越しした家がどんなとこかも知らないし。」

 先日、義実家での集まりで私の親が引っ越したという話が持ち上がりーそれは年賀状で知ったらしいのだけれど。
どんなところに越したのか、興味本位で義姉ー次女が夫に聞いたのだ。
 しかし、当たり前だけれど夫は一度も私の実家に顔を出していない。
そもそも引っ越し前だって来ていないし、引っ越しの手伝いすらしていない。
そんな状況を義姉らは知らず、夫がその質問に答えられないことに疑問を抱いたのがきっかけだ。
夫は、事業立ち上げで忙しく顔を出す余裕が無かったとかなんとか義姉に言い訳をしていたけれど、

「あなたもカズに色々思うところはあるわよね。うちにばかり来て奥さんの実家にノータッチじゃ不満もあるでしょう?」

 余計なことを言ってくれたものだ。
義姉に順応な夫は、その言葉を鵜呑みにしたのか私の実家に行くことに固執し始めた。

「今度の日曜は休みだから。実家に何時頃行けばいいか聞いてみて。」

「いや、実家も予定あるかもだし。」

「じゃあいつならいいか聞いて。」

「でも、本当に大丈夫だから。家も狭くなったし。」

「何?俺に来て欲しくない理由があるわけ?」

夫がへそを曲げ始めた。


娘として妻としての板挟み

 夫の機嫌を優先させれば、母の機嫌が悪くなる。母の機嫌を優先させれば夫の機嫌が悪くなる。
夫は、招かれざる客なのだ。
もうすべて吐き出してしまいたくもある。
母が来るなと言っているーと。
それはあなたの昔から今も続く言動が原因なのだと。
喉元まで出掛ける言葉は、しかしギリギリのところで飲み込んでしまう。
もしそれを夫に伝えたら、私達夫婦の関係ももう終わりになりそうで、明らかに夫に否があるのに強く出られない。
損得勘定が働くのだ。

それは、私が自立していないからー
夫婦関係が破綻した時のデメリットが、私側に大き過ぎる。
情けないけれど、それが一番の足枷。

嘘で自分を守る

 結局、双方に嘘を付いた。
母には、子の学校が忙しく、また部活に入るだろう関係で会えるのが夏以降になってしまう。
なので、お祝いの気持ちだけ頂くと。

「あ、そう。じゃあお祝い金は郵送するわね。」

 すんなりと深読みせず受け取ってくれたのは助かった。
母も、まさかあの夫が自ら行きたいなんて言ってるとは思いもしないのだろう。

夫には、父の体調が悪く寝たきり状態だし母も具合が悪いのでおもてなし出来ないし申し訳ないから元気になったら遊びに来てくれーと言っていたと伝えた。
しかし、夫はそれでも引かない。

「じゃあ、見舞いに行こう。」

 なぜ、そうなるのだろう?空気が読めない夫に段々と腹が立って来た。
私にとって怖いのは、夫もだけれど母の方なのかもしれない。
このギリギリのところまで追い詰められた時、私は母を優先させたのだ。

「だから、私達がお見舞いに行くことでお父さんやお母さんの負担になるの。あなたが来たらやっぱり色々もてなさないとって気持ちになるし。それが出来なかったら、それはそれで出来ないってストレスになるし。娘の婿さんが久しぶりに来て、家の中がぐちゃぐちゃなのを見られたくないって気持ちもあるし。」

 ここまで言って、ようやく夫は私の言うことを受け入れた。
だが、心から納得というよりは渋々という感じ。

「じゃあ、GWあたりだな。仕切り直しで。」

 とにかく、一度こうと思ったら人のことなどお構いなく自分の意思を通そうとする。
母も毒なところで私を困らせるけれど、夫も然り。
本当に厄介な男なのだ。



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