水を得た魚

カクレクマノミ 仕事
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 ここで働き続けている人達は、まるで、水を得た魚のように自由に泳ぎ回っているようにみえる。
リーダーは、シャチ。機敏な動きと判断力、狙った獲物は逃がさない攻撃力に知性。
小川さんは、イルカ。その可愛らしい見た目や華やかさもだけれど、何より賢く、瞬時に相手の気持ちを読み取り期待以上の成果を上げる。
中山さんは、ダイオウイカ。あの粘着質な絡みつくような視線。ぎょろっとした目にいつでも委縮してしまう。
派遣さんは、クラゲのよう。優雅にゆらゆら漂いながらも、自分の意思を持ってそこに留まる。
時に、チクっと鋭い針を刺す容赦の無さと近寄りがたさ。なのに、美しい。

そんな風に、職場の人間を海の生き物に例えたって彼らは彼らだし、私は私。
私は岩陰に潜むカクレクマノミのようで、彼らとはまったく次元の違う場所にいるのだけれど。


 与えられたデータ入力を黙々と行う。
朝、小川さんから頼まれた登録作業。その量は膨大だけれど、正直、急ぎの仕事ではなさそう。
ただデスクでぼんやりさせておくのも時給が発生している分無駄だから、何かしらの作業を与えられているのだと思う。
そして、そんな面倒な割り振りをしなくてはならない小川さんに申し訳ない気持ち。
作業を渡すにもそれなりに準備をしなくてはならず、それは彼女の時間を奪うこと。
私がいることで迷惑を掛けている、そう思うと、やっぱりもう潮時なのかもしれないと思う。


派遣さんが、中山さん率いるチームの打ち合わせにミーティングルームに入っていくのが見えた。
本来、あのポジションに私がいるはずだった。
中山さんが、私には向けたことのないような愛想良い表情でドアを開け、派遣さんを通す。
それはまるでジェントルマンのようで、もし私が有能な人間だったら、彼の心のドアも簡単に開く鍵を手に入れていたのだろう。

余剰人員ー、いくら鈍感風に装っていても、やるせない。
カタカタと入力をし、必要以外の会話もせず、午前中を過ごす。
すっかりこの場所に馴染んだ派遣さんを後目に、私は自分の居場所を失っていく。
昼になり、ひっそりと退勤する。
私が今日ここで働いたことを知る人は小川さんくらいだけれど、彼女もまた忙しく、私にばかり構っていられない。

丁度良い水温で、流れで、自分が気持ち良く泳げる場所。
求めるのはおこがましいか。
ここは、どうしたって酸素が足りない。






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