かおりから、久しぶりにラインが入った。
何年ぶり?とも思えるコンタクトに胸がときめいた。
だがそれは、同窓会を知らせるもので、私個人への連絡ではなくがっかり。
それでも、ラインからの通話になり、短いけれど彼女と話せたことは嬉しかった。
ー銀行は、まだ続けてるの?
ーうん、なんとか。でもやっぱりキツイわ。若い頃はうまくやれてたのにね。そっちはどう?IT系だっけ?
ーそれはもう辞めた。今は事務やってるよ。
他に、互いの子ども達の話、それに夫のことも。
ーモラハラ夫とは最近どう?でもMみたいに社長夫人で悠々自適じゃないの~?
ーまさか!もうアップアップ。いつ廃業するかって感じ。この不景気だし、相変わらず資格試験も合格しないし。見てられないよ。共同経営してる人がいてね、その人とも犬猿の仲でさ。資金繰りもきつくって親に内緒で借金してたり。義父さんがうちの子にってくれた学費も使い込んでてさ。あり得ないでしょ?
ーごめん、それ離婚案件だわ。
夫に対しての不満を、リアル友達にぶちまけることで何ともいえない爽快感。
と、同時に喋り過ぎたかもーと一抹の不安。
そういう時は、暗黙の交換条件として相手の秘密を手繰り寄せる。
ーうちはさ、何とか仕事が決まったけどね。ドラッグストアだよ。ちょっと鬱になった時期があってパソコンも触れなくなっちゃったんだよね。で、気晴らしにバイトで外出てみたらって働きだしたらはまったみたいで。
ーそうなんだ!意外。でもやっぱり健康第一だよ。良かったね。
ーでもさ、そう思ってたんだけどさ。やっぱりお金が無いと心が荒むよね。社員になったけど新卒並みの給料なんだよね。未経験だし薬剤師でもないから仕方ないんだけどさ。子ども達にこれからどんどん掛かってくるっていうのに、私もパートなんてやってる場合じゃないんだけど・・これが今は限界で。
ーいやいや、無理は良くないよ。
ーこないだ同窓会の打ち合わせでMに会ったんだけどさ。子どもがいなくてお金があって、なんか住む世界が違うなぁって。余裕があるのよ。私、ふっと自分の手元隠しちゃった。
ーなんで?
ー爪がぼっろぼろでさ。ネイルすらしてなくて。しわくちゃでおばあちゃんみたいな手だったの。手だけじゃないか。肌も髪も服装も全部おばさん。Ⅿがあまりにも若々しくって、恥ずかしくなった。
ーそれはさ、子ども産んでないからじゃない?子ども産んで育ててたら誰だってそうなるよ。自分のことだけ考えてればいいんだもん。自分だけのメンテナンスに専念する時間がたっぷりあるんだから。うちらとは違うよ。物理的に時間が足りないんだし、お金だってそうだよ。
Mのことを思い出し、彼女のことが嫌いだからかまるで子どものいない主婦全般を否定するかのような発言をしてしまったけれど、そうではなく純粋にMという人間を見下したかった。
それはきっと、私が彼女にずっと、今でも見下されているからだ。思い出されもしないだろう彼女の記憶にすら引っ掛からないだろう見下し。
ーあ、そろそろお迎えいかないと。
ーあ、ごめんね!
ー同窓会、無理だったとしても2人で会いたいね。
ーうん、また連絡する~
学生時代の友達ってやっぱりいい。
年賀状ラインに塩対応され、もう疎遠になっていく一方だと思っていたけれど、こうして思い出してくれて連絡をくれて、ちょっとの会話を楽しめる友達。
落ちていた心が上がり、満たされた。