蜜を差し出す

蜂蜜 家族
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 N恵にラインをしてからとんとん拍子に会う流れになり、軽くランチをすることになった。
私はパート休みでN恵は子ども達が学校や園に行っている間の数時間。

 新宿で待ち合わせ、現れたN恵はショッピングに付き合ってと言う。
まだランチには早い時間だったので、快くOKした。

伊勢丹へ行き、コスメフロアへ。
N恵は買い物の目的がはっきりしているようで、いつも使っているらしいブランド店へ。
なんと読むのか分からなかったけれど、後から調べたらコスメデコルテというらしい。
その店で美容液とパウダーを購入していた。
その後は、シャネルへ。そこではリップグロスを購入。
私もBAに声を掛けられたけれど気後れし、

「いや、私はいいです。」

 買えるわけもないので断った。
なんだかN恵のお付きの人のようで、同じ従姉妹なのにこの経済格差かと惨めな気持ちになる。
だが、伯父のことを思い出せばそんなネガティブも薄れる。

コスメの次は、バッグ。
エルメスやフェンディ、プラダにグッチ、各店に躊躇なく入るN恵。
私なら絶対入店出来ない、店員から頭のてっぺんからつま先まで値踏みされるあの感覚が苦手だ。
N恵は堂々と店の中の商品を見て、店員と会話をし、まるで上客のように振舞っているからすごい。


「学校のママ達、みんなエルメスのバーキンとか普通に持って参観来るんだよね。私も結婚記念日とか誕生日に旦那に買って貰ったバッグとかブランドものは独身の頃に色々買ったのあるけど、なんか安っぽくて。半端に高い?感じが逆に庶民っぽくって恥ずかしいんだよね。ちょっとここら辺で良いバッグ欲しいなって。」


 数十万~数百万のバッグを買うつもり?
ちょっとそれは辞めさせないと。
伯父の株の話、まさか知らない?
いや、それを知っててヤケになってる。彼女にはそういうところがある。
怒りや不安が買い物の衝動になることを、私も知っている。
かつて、私は買い物依存症だったのだ。そしてそれと同じ血が従姉妹のN恵にも流れている。

さっきまでN恵に持っていたはずの感情が一変し、今度は保護者のような実の姉のような感情がわく。
駄目、そんな簡単にそんなバカな見栄で今あるお金を無駄にしたらー


「ちょっと、ちょっと、どうしたの?」

「お腹すいちゃった!ランチしよう。」


 物凄い金額のバッグをさらりとカードで購入しようとする従姉妹の手を引っ張り、外に出て外気に触れさせる。
まだまだ残暑が続く熱を含んだアスファルトの焼け付くようなにおいー、そして現実に立ち返る。
伯父の話はやめて、楽しいランチにしよう。
私の不幸話でN恵を楽にさせよう。
パートの話に夫の自営がうまくいかない話、米すら買うのに躊躇している家計のひっ迫とダブルワークをしなくてはならない話。
話すことはたくさんある。
私の頭を悩ませている諸問題は、きっとN恵を励ますだろう。
なんだ、私と同じくらい大変な人間がここにもいるじゃないって。



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