詮索好き

虫眼鏡 仕事
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 いつものように、職場の休憩室で持参して来たおにぎりとスープをいただこうとしていたところ、木佐貫さんが入って来た。

「あ、お疲れ様です。」

 私の口癖。ついつい、「あ、」と加えてしまうのは何かの防衛反応だろうか。
木佐貫さんも珍しく弁当を持って来たようだった。

「今日、子どもが遠足だったから自分の分も作って来ちゃった。」


 小学生のお子さんがいるワーママで、それでもフルで働いている彼女は毎日忙しそうだ。
米田さんのように頼れる両親もいないらしく、仕事中も常日頃、ワンオペの愚痴を吐く。
二人きりの休憩室、沈黙にならないようどう話を振ったら良いか迷っていると、彼女の方からだらだらと会話を始めた。
やはり、いつものように大変アピール。


「今朝も登校班まで送って、そしたら水筒忘れたって言うもんだから取りに帰ってさ、電車の時間ギリギリだし走って、なんとか間に合ったけど、疲れたー。早く大きくなって欲しい~芝生さんのお子さんはもう高校生でしょう?もう子育ても終わりって感じで楽なんじゃない?」


「いえ、なんだかんだで大変ですよまだ。高校は毎日お弁当作らないとですし。」

「お弁当要るんだ。大変だね。今年受験だっけ?どこ受けるの?」

「いや、まだ高2なんで。」

「でも来年はもう受験でしょう?志望校はなんとなく決めてないの?ご主人や芝生さんの通ってたとことか。そうそう、芝生さんってどこ大卒?」


 あまりにも直球に聞いて来たので、はぐらかすことが出来ず、短大卒だとぺらっと話してしまう。
米田さんは私の面接時、履歴書を見て知っているはずだけれど、さすがに同僚に個人情報までは教えていないのだなとほっとする反面、木佐貫さんがうざったい。
こういう時、うまく濁せたらいいのだが、その後の相手のリアクションを想像し怖くなってしまうのだ。

 
「ご主人はどんなお仕事してるの?前にも聞いたかもだけど、教えてくれなかったよね。芝生さんも手伝ってるんでしょう?社長夫人なのにこんなところでパートしてていいの?」

「はぁ・・でも、私は本当に時々顔を出す程度で。他に従業員いますし。」

「どこに事務所あるの?」

 貴重な休み時間に、なぜ尋問されないとならないのか。
真っ直ぐな目で聞いてくる彼女は、いったい他人の情報を得て何がしたいのか?
いちいち教えたくないと内心思っているのに、馬鹿正直に答えてしまう。


「へぇ~。従業員って何人くらい?もう何年やってるの?」


 なんだか足元を見られている、そんな気がした。
思えば、子ども関連の付き合いでもこういうことがあったなと思い出す。
こちらの手持ちのカードをすべてさらけ出したところで、相手からは何も返ってこない。
それどころか、出したカードは私の知らない場所でばら撒かれる。今回もきっとそうなのだろう。
私不在のランチタイム、米田さんや花山さんとの3人での会話に添えられる、ちょっとした沈黙が出来た時に話題にされるネタ。メインの横に添えられるパセリのようなものだ。

 仕事上、出来が悪いし足を引っ張っていることは確かだけれど、だからといって土足でプライバシーに踏み込んで来られることに違和感と強い嫌悪感が湧く。
気弱そうな人間には強く出るタイプなのだろうか、あれこれ躊躇無く詮索する彼女が卑しい人間に思える。
面倒臭い、ただそう思った。






 

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