我慢の限界

エレベーター 仕事
スポンサーリンク


 もう、本当に米田さんが無理。
とうとう挨拶もスルーされた。
朝、職場のエレベーター前で彼女の後姿が見えて、一緒に乗るのが気まずいから階段を使ってあがったら、部署フロア前で鉢合わせ。引き攣り笑顔で挨拶したけれど、無反応。
社会人としてどうなんですか?と言いたい。幼稚園時代のスネ夫ママらを思い出す。
大人になれば、どんなに虫の好かない相手に対してだって、最低限のマナーは守るだろう。
そういうものだと思っていたのに、朝っぱらからとても嫌な気分になった。

業務に入り、彼女からチャットで仕事の指示をされた。
チャットなので、分からない箇所があればチャットで聞き返した方が良いのかと思いそうしたけれど、返信がない。
なので1時間経って、自分がやるべきことが進まない焦りもあって、彼女が黒川さんに仕事を振りつつ笑顔で雑談をし、席に戻ったタイミングで聞きに行った。彼女の表情が柔らかくなっていたからだ。
でも、私が近付いた途端、能面のような表情に。

「あの・・」

 声を掛け、要点をまとめて質問をする。
だが、その相槌に「剣」がある。前に勤めていたIT系の小川さんの物腰の良い相槌に及ばない。
明らかに、苛ついて時間が勿体無い感じの忙しさの相槌。
それに、小ばかにしたように私を下に見る。

「それについては説明しましたけど。」

ーえ?いつ?

 頭の中に疑問がわく。
そんな説明を受けた覚えがない。

「ちゃんと確認して下さい。」

 そう言って、彼女は目の前のPCに視線をうつした。
もうこれ以上は受け付けませんといった風に。

「ごめんなさい、でも説明された記憶がないんです。」

「え?しましたよ!?」

「私が聞き逃していたのかもしれないです。申し訳ありませんが、もう一度お願いします。業務が進まないので・・」

 うんざりとため息をついて、渋々説明をしてくれたのだけれど、やっぱり記憶がない。
正直、私以外の誰かー花山さんや黒川さんにこの業務をさせた時に説明したのではないだろうか。
そんなこと聞けないけれど、すごくもやもやした。
釈然としないまま、お礼を言い席に着いた。

 午後は、木佐貫さんがいつも花山さんに依頼している作業を代わりにしたのだけれど、これについては花山さんが共有フォルダにマニュアルを作成してくれているお陰で、それを見ながらスムーズにこなすことが出来た。
だが、最終的に米田さん経由である処理をして貰ってから完了ということになるので、そのお願いをしたのだけれど。
また、彼女を苛つかせてしまった。

「もうそれについては終わってますけど?ちゃんと確認してからこっちに回して貰えませんか?私、忙しいんですよ。」


 私だったらー
一言、「それならもう大丈夫ですよ。完了です。」の返しで終わるのに。
いちいち嫌な対応をする彼女に、段々と苛々して来て思い切り悪口を言いたくなる。
こんな時、花山さんがいたらスッキリするのに。

他にも、ちょくちょく修正がかかる作業があって、その修正は米田さんが主に本社から言われて行うことが多いのだけれど、もう修正が無いとGOサインが出たところで社外にメールをしなくてはならず、大丈夫かチャットでお伺いを立てたのだけれど、

ー修正、昨日で終わってますよね。見れば分かりますよね。メールして下さいー

 つっけんどんに返された。
いやいや、その修正が本当に最後の修正なのかはこちらでは分からないし、本社と直接連絡を取れるのは社員であるアンタなんだから、どうしたって確認を取らなければならないんだって。
不在である花山さんの口調が乗り移り、心の中で悪態をつく。
いよいよ彼女の対応に限界がやって来て、


ー修正は一回で終わるということですね。今後、追加の修正はないということで認識しました。


 チャットを返した。そして、帰りになっても返信はない。
彼女の視線を痛いくらい感じたけれど、もういい。
やってられない。
退社時間、お先に失礼しますの言葉は、彼女に尻を向けて他の社員に向かってしてやった。



 

 

タイトルとURLをコピーしました