やりがい搾取

激務 仕事
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 「あー、なんかやってらんない。」

 出勤早々、隣の席の花山さんがぼやく。
事務パート、米田さんは部長の同行で外回り。
木佐貫さんは研修ということで、私と花山さんが事務所に残された日。
他にも社員はいるのだが、他部署なので私達が処理する業務と殆ど関わりはない。
花山さんのデスク上は、書類の山積み。いまだに紙ベースの中小企業なのだ。
対し、私のデスクは綺麗さっぱり。何の変化も無かった。

花山さんのPC画面には付箋が貼られており、恐らく米田さんの文字。

ー今日中にお願いします。詳細はフォルダAとメールを見て下さい。不明点があればラインだったら返事出来ますー

 いつの間にライン交換したのか、私は米田さんの連絡先など知らない。
同じパートなのに、社員との距離感は彼女と違う。
いつもののんびりした表情は消え、シャキッとした彼女に掛ける言葉といったらありきたりなもの。


「何か、お手伝い出来ることがあれば言って下さい。」


「あ~、そうだね。ちょっと整理させてね~。あとでやって貰うこと出来るかも。今日はルーティンの方お願いしてもいい?」

 ルーティンとは、他部署から来た書類の第一次チェックや振り分け、また請求書の仕分けなど。
誰でも出来る簡単なもの。だが、案外時間を取られる仕事でもある。


「見てよこれ。違ってるよね、米田さん、疲れてるのかな。」

 花山さんが、米田さんのミスを私に伝える。
私はどんな返しをしたら良いのか分からず、そもそも何がどうミスなのかも分からず、愛想笑い。
隣の島の男性社員がこちらをチラチラ気にしているが、花山さんはお構いなし。


「木佐貫さんもさ、結構ミス多いんだよね。要領悪いっていうかさ。それに段取り悪過ぎ。パートに仕事振るにしても、もう少しやり方あると思うんだよね~」


 いつもの天然キャラはどこへ?
こっちが本物なのか、話し方も違うし、この姿を見たら米田さん達もドン引きだろう。


「芝生さん、これまとめてくれない?この関数、分かる?」


 Excelのデータ処理で、やったことのない関数。
分からないけれど、分からないと言えない空気。少しでもやる気を見せないとと思い、


「大丈夫です、調べてやってみます。」


 こう返した。
試行錯誤しつつ、ネットで調べつつ関数を使い、これで果たして正しいのか?
見よう見真似でやるしかないのだ。

昼になり、きっかり12時のチャイムと共に、花山さんはPCのディスプレイ画面をOFFにした。
そしてまだExcelと格闘している私に、

「芝生さん、真面目だね~。もっと適当にやらないといいように使われるだけだよ~私、半分くらいの力しか出してないよ。前の会社でやりがい搾取されたからね。もうあんな目に合うのは御免。」


 てっきりこの職場に馴染み、先輩社員らとも楽しくやって、仕事も楽しそうにこなしていた彼女だと思っていたのに。
しかも、過去の職場で受けた闇の部分を相当引き摺っているらしい。

「お昼、行ってきまーす!」

 ブラックな一面を見せた彼女は、いつもの様にふんわりと昼休憩に出て行った。
やりがい搾取ってなんだろう?後からネットで調べると、こうあった。

【やりがい搾取】

ー労働者の「認められたい」「自己肯定感を得たい」という心理を利用して、適切な報酬を与えずに労働させることー


 仕事が出来る人は出来る人で、こういう面倒に巻き込まれることもあるのだ。
私が彼女の立場だったらー、まさに搾取されかねないと思ってしまった。






 

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隣の芝生
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