新しいパート、ここでも雑用係。
膨大な数の教材セットを作るようにとの指示が出た。
広い会議室に積み上げられた段ボールの山。その中から何種類ものテキストを取り出す。
セットは何種類もあり、Aセットは100セットにBセットは80セット、またCセットは50セットに・・とセット数も様々。そしてセットに入れる教材も、他のセットと被るテキストもあればそのセットにしか入らないテキストもあったり。指示書は貰ったけれど、慣れるまで大変。
まずはそれぞれ見本を作り、それを長テーブルに置いた。それを見ながら順番にセットを作っていく作業。
これを、今日中にやれという指示。正直、昼休み返上でやらなきゃ無理だろう・・そう思ったのは、11時を過ぎたあたり。昼休憩、皆がぞろぞろ楽しそうに外に出たりお弁当を持って空き会議室へ向かうなか、デスクに戻り自分のバッグの中からおにぎりだけ取り出す。喉がからからだったので、一気に水筒のお茶を飲み干してしまった。体力はすっかり奪われていた。
仕方なく、外の自販機で500mlのペットボトルのお茶を買い足した。会議室に戻り、おにぎりを食べながらセットを作る。頭の中は無になっていた。持って来ていた春雨スープも、他の同僚のランチに混ざることも諦めた。というか、仕事がこんなにあるのだから仕方がないーという理由で逃げた。
やっぱり、既に出来た輪の中に自ら飛び込む勇気なんて最初からなかったのだ。むしろ、やるべきことがキャパオーバーなことに感謝している自分もいた。
16時を過ぎた頃、この仕事を頼んだ男性社員がやって来て、進捗を確認。
「あと、どれくらい残ってますか?」
「えっと・・AセットとBセットとCセットは何とか終わりましたが、DセットとEセットがまだそれぞれこれと・・こっちのテキストと問題集が入ってない状態です。
「えっと、今日は残業とか、出来ますか?」
「あぁ・・はい。」
汗だくで、誰ともほぼ会話せずセットを作る。時間に追われながら。残業すればその分お金も稼げる、そうポジティブに捉えて、ひたすらセットを作った。
が・・最後に冷や汗がどばっと出る出来事が起こった。
ようやくEセットの最後の数を作る段階で、すべてのセットに入れなくてはならないテキストが足りないことに気付く。テキストが入っていた段ボールも空っぽ。どうしよう・・とぼとぼと男性社員にそれを伝える。男性社員は、大袈裟に頭を抱える。
「え・・・ちょっと待って下さい。ちゃんと確認しながら封入しましたよね?」
「はい・・」
蚊の鳴くような声で返す。
そこからの記憶は断片的だ。まだ残っていたパートさん達も巻き込んで、皆で一度セットしたものの中味を確認。まだ封をしていなかったことだけが救いだったけれど、それでも山となっているセットから不備を探し出すのは至難の業だった。
「あったー!!ここに2冊入ってる!」
私より年輩の古株パートさんが大声をあげた。
みんなでハイタッチしてる。男性社員もほっとした顔で、彼女にお礼を告げた。
「さすがです。助かりました。」
私も彼に続いて、その人のところに行き、頭を下げる。
皆にも下げる。あぁ、ここでも厄介者だと情けなくなる。
「さー、帰ろ帰ろ。」
「疲れたね!一杯、今日どう?」
「えー、さすがにまだ週明けだよ。子どもも部活から帰って来る時間だし、だめだめ。週末ね!」
そんな会話を仲良しパート同士でしつつ、退社して行った。
そこに私の立ち入る隙なんて一ミリも無かった。
まだ、事務パートの方が人間関係マシかも、と思えるくらい、この職場の中で私は空気だ。
いや、空気じゃないな。ガスだ。皆を不快にさせるガス。
帰りの電車の中でチャッピーに訴える。
ガスからなんとか空気に戻り、平常心になったところで自宅に辿り着いた。
時刻は19時過ぎ。子も夫もまだ帰宅していない。子は、サークルで今夜は外で食べて来るらしい。夫も外で食べて来てくれたらいいのにーという期待は裏切られそうなので、なんとか踏ん張って夕食準備を始めた。
包丁を握ると、紙で切った指先の傷が視界に入る。さっきまで痛みなんて感じなかったのに、じわじわとそれは私の中にあるすべての感覚を刺激する。
救急箱からバンソーコを取り出し、指先に巻き付ける。圧迫し過ぎたのか、傷口は何の感覚も無くなった。そうして私の心も一緒に無になっていく。出来上がったカレーは、普通に美味しかった。
初めての残業と反省
仕事