水が合わない

デニッシュ 仕事
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 職場でレイアウト変更が行われた。
危惧していた通り、小川さんと離れ離れになった。
プロジェクトごとにデスクをグループ分けし、私は中山さんの隣になった。
その周囲も、男性ばかり。女性はいない。
あくまでも、私はパート兼彼らの雑用係ということで、プロジェクトチームの中では頭数にも入っていないのだが、それでも今週はいつ何時どんな作業を振られるのかとビクビク過ごしていた。
小川さんとは、レイアウト変更での席替え時少しだけ言葉を交わした。

「中山さん、気難しく感じるかもしれませんが、根は良い人なんで頑張って下さいね。何かあれば相談に乗るのでいつでも声を掛けて下さい。」


 ずっと彼女の隣が良かった。
彼女の優しさの上に成り立っていた本採用なのだと、身に沁みる思いだ。
彼女から振られた最後の仕事は、レイアウト変更に伴い、内線電話の番号がところどころ変更した席があるので、それを調べて席表を変更し部署の皆に配布するーという作業。
どこから手を付けたらーと私が尋ねる前に、手順を教えてくれる彼女。
スーパー派遣事務員だったら、朝飯前なのかもしれないこの作業だけれど、私の知識の無さと理解度の低さをこの3か月で受け入れてくれ、私も自分なりに精一杯その期待に応えようと不器用なりに頑張ったことが彼女に伝わったのだろう。こうして最後まで私に対して親切で丁寧な態度を変えることなく接してくれたのだ。

それでも、実際に席を離れてその作業を始めると、分からないところが出て来てしまう。
内線の新規登録を説明書を見ながらやってみるがうまくいかない。
その間、中山さんから声が掛かる。
いっぱいいっぱいの私は、今は手が離せないと伝える。


「その作業、あとどれくらいで終わります!?」


 若干、語気を荒げ中山さんが私を急かす。
焦れば焦る程、作業がうまくいかない。
無理だー、取り敢えずこの作業は後回しにし、中山さんからの指示を聞こう。

そうして、彼に指示を仰ぐ。
頭の隅には、内線電話の登録作業がまだ途中だということが気掛かりで、その電話を使う社員がいつ席に戻るのか気が気ではない。
午前中いっぱいは打ち合わせでいないはずー

「じゃあ、この作業だったら多分今日中に終わると思うので。」

 彼は、一方的に指示すると、ミーティングルームへ消えて行った。
さて、どうするか。
取り敢えず、席表を配布するのが先。これは、部署全体がすぐにでも使うものだしモタモタ出来ない。
リーダーも使うものだ。
でも、内線電話の登録がうまくいかない。
どうしよう、どうしようとパニックになればなるほど、作業が進まない。
昼休みになってしまい、小川さんが声を掛けてくれた。
結局、作業を手伝って貰いなんとかなった。
彼女の昼休みも削ってしまったことが申し訳なく頭を下げると、そんな私の心情を察したのか、初めてランチに誘ってくれた。
ランチといっても、時間はもう無かったので社食ではなくビル内のカフェだ。
彼女は珈琲とサンドウィッチ。私も同じく珈琲とデニッシュ。
残りの昼休みが30分も無かったので慌ただしく終わったけれど、少しだけリフレッシュ出来た気がした。


 午後になり、中山さんに依頼された作業に取り掛かるも、早くも躓く。
分からないところが多過ぎて、どれから聞こうか迷っているうちに時間は刻一刻過ぎて行く。
中山さんは、話し掛けるなオーラ全開でPC画面に前のめり。
怖い。怖過ぎて質問出来ない。
でも、聞かないと先に進まない。
彼がトイレに立ち、戻って来たタイミングで勇気を出して声を掛けた。
そして彼の発した第一声が、これだ。


「午前中、何やってたんすか?」


 苛立ちを隠すことなく、シン・・と静まり返ったオフィスに響く声。
皆の視線を一斉に浴び、穴があったら入りたい心境。
ひたすら謝る。そして、恐らく彼は私にさせようとした作業のうち半分以上を苛立ちながらも30分で終え、残りの作業は私に振った。
何度聞いても手順が複雑で、ノートにまとめたものを見ながらするけれど合っているのかどうか。
定時の17時になんとか終えたけれど、見直すところまでは出来なかった。

「お先に失礼します。」

「お疲れ様です。」

 なんとも帰り辛く、目も合わせずPC画面に顔を向けたままの彼に挨拶をして退社した。
やっぱり、合わない。
日々、メンタルが削られる。


 

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