高校PTA

アイデアメモ わたし
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 PTA役員。
私が引いた当たりくじは「広報委員」だった。
主に、年3回程度の広報誌の発行が仕事となる。
わざわざ土曜日ー、しかも雨の中での集まりに参加することになった。



高校のPTAはあっさり

 7クラスあるので、1年生の親は7人。委員全体だと20人強。
その7人でライングループが早速作られた。
1年生の代表というか、連絡係的な人がいつの間に決まっており、これもくじ引きだったらどうしようかと思ったけれど助かった。
立候補してくれたのか、それとも他学年や本部に知人がいるのか。
どちらにしても、有難かった。
小中学校と違い、任期が3年。
なので、2,3年の保護者は委員会の仕事に熟知している先輩ということになる。
私達1年生の親は、指示に従い付いていくのみ。

 先月には常任理事会というものがあり、1年生の代表が出席してくれた。
ラインで報告のようなものがあったけれど、高校にもなると役員も皆あっさりしたものなのか、レスポンスもぱらぱらといった感じで。
私も一言、ありがとうございましたーと返したくらい。


出席率低い

 実際の集まりだが、1年生の親の出席率が低過ぎた。
7人のうち、たったの3人。
代表のTさん、それにKさんと私。
Tさんは割とハキハキした人だが、Kさんは物静かな印象。
互いに軽く会釈し合う。
Tさんが、小さな声で名前だけの自己紹介をして来たので、私も返す。Kさんも返す。
会話がそこから続くことはなく、委員長が前に出て来たので全体での会が始まった。

 

企画内容検討

 集まってすぐ、委員長から例年の流れー主に年間スケジュールについての説明を受けた。
小中学校との違いは、3年間役員をすることで引継ぎなどがスムーズだということ。
つまり、去年と一昨年在籍している委員が今年もいるという安心感。
1年の任期だと、引継ぎもままならないまま、過去の資料を探り探りで業務を遂行していかなくてはならない。

 「例年通りにーという訳ではありませんが、去年は夏休み前に発行しています。例年使ってる印刷業者さんに6月中には依頼まで持って行きたいところです。校正から修正など掛かる期間を踏まえたうえで、私達は企画と取材、それに編集作業をしていかなくてはなりません。」



「では早速、今日は企画内容の検討をはじめたいと思います。えーと、何か案、ありませんか?」


 なぜか、委員長は私達1年生に向かって話し掛ける。


「去年と一昨年は、ご覧の通り、先生紹介と体育祭を主に記事を組んでいます。ただ、マンネリ化もしてしまっていて。個人的にですが、今年は趣向を変えてもいいのではないかなーと思っています。」


 配布された、過去の広報誌。
確かに、レイアウトはそれぞれ違うけれど、内容は似たり寄ったり。
というか、小学校や中学校の広報誌ともさほど変わり映えのない内容だ。
でも、それでいいのでは?
敢えての変化球ってそんなに必要?


「1年生からは、何かやりたい企画とかありませんか?」


 一同、沈黙・・
こんな時、たったの3人だからきつい。
代表のTさんも、テキパキした感じの人だからすぐに意見を出してくれるかと思ったのにだんまり。
気まずい時間が流れた。
そーっと顔をあげるとバッチリ委員長と目が合った。


「何か、ありませんか?・・えっと、芝生さん。」


 教室に入った時渡された、厚紙で作られた立て掛けるタイプの名札。
この時点で、発言しなくてはならない時間ー例えば自己紹介だとかがあるのだろうと覚悟はしていたけれど、まさか一番に当たるのがこの私だとは思ってもみなかった。
これに自分の氏名を書いていたので、委員長も私が誰なのか認識出来る。

 こういう時、かなりの高確率で指名される私。
しかし、頭の中は真っ白。
何かありませんか?って言ったって、そんな奇抜なアイデアなんて出るわけない。
先生紹介でいいじゃないか。
ただ、質問内容をちょっと面白い感じにしたら生徒にもうけるのでは?
真っ白な頭の片隅で渦巻く小さな意見ー。ただそれを言ったら、委員長がおもしろくないのではないか・・
しかし、追い詰められた私は自分の殻を破りたくなった。
私は変わる、そう決めたんじゃなかったっけ。


私は変わりたい

 もう一人の「私」が背中を押す。
自分の中で、精一杯の声を張る。


「内容として、先生紹介は例年通り入れた方がいいかと思います。私達1年の親は特に先生方の名前も顔も一致していませんし。恐らく、子ども達も自分の学年以外の先生のことはよく分からないと思います。ただ、内容をいつもとは違う感じにしたら良いかと・・」


 自分が思う程の声は出ず、相変わらず教室内では控えめなボリュームだったし、声も震えてしまった。


「と、いうと?質問内容を変えるということですか?」


 委員長が、真っ直ぐな視線でこちらを見る。つい目を反らしてしまいそうになるが、見つめ返す。
周囲からの視線をバンバン感じ、声だけでなく体も震えてしまう。


「先生方のプロフィールの他に、質問もあると思うんですが。その質問の構成をいつもとは違う感じにしたらいいんじゃないでしょうか。例えば・・校長先生が教頭先生の性格を一言、教頭先生は、教務主任の性格を一言・・というように。これを動物や芸能人に例えるとーって内容にしてもいいですし。自己紹介というより他己紹介って感じで。」


 すると、3年生の保護者が、


「それ、いつもとは違って面白そうですね!」


「上下関係も、何となく分かるのがかえって面白いかもしれないですね!あの校長先生を動物に例えるとか、教頭先生も気を遣ってどんな珍回答するんだろう。」

 ふと入学式の檀上にいた校長を思い出す。
確か、カバのような顔をしていた。


「10万円でプレゼントを買うとしたら・・とかも面白いかもですね!」


そこから時間はあっという間に過ぎて行った。意見も色々と出て、何となくだが大枠が決まった。

 会議中、物凄く緊張していたし喉はカラカラだったし、ちょっと油断すればどもりそうにもなったけれど、何より自分の意見がこうして皆に認められることなんて普段の生活ではない分、なんだか新鮮で嬉しくてー、私だってやれば出来るじゃん!と自分を褒めてやりたくなった。




小さな達成感

 会議が終わり、皆ぞろぞろと教室を後にした。
1年生のTさん達と3人で途中まで帰宅。
大変だけれど、何とかやれそうな兆しに胸をなでおろす。
駅で別れ、休日の電車内の混雑にすら心地良さをおぼえる。
私の中で、小さいながらも達成感が生まれた瞬間だった。



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