薬剤師パート

薬剤師 家族
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 N恵の動画の存在を知ってから、毎日のように彼女のチャンネルを確認するようになってしまった。
私があのコメントを送ってから、それについてのレスポンスは無かったものの、あっさり子ども達の顔にはモザイクが掛かっており、気持ちが届いたことが嬉しかった。


久しぶりのコンタクト

 人恋しい時期が続くと、私は大抵、高校の宗教の友達かN恵、もしくは引っ越し前のママ友にコンタクトを取る。
ただ、宗教の友達とは生活の環境も違うし、引っ越し前のママ友については受験がどうなったか分からないのでしばらく様子見。
本当に、私には友達らしい友達がいないのだ。
しかし、N恵は従姉妹。他人ではない分、遠慮が要らない。また、本当の妹でもないので距離感はあるぶん、気を遣うところだってある。
動画だって、弟があげていたら直接本人に言えるけれど。
従姉妹だから、匿名コメントに留めておいた、そんな風に。


時給2000円パート

 N恵にラインをしたのが昨日のこと。
平日は、動画を観ても分かる通り、フルタイムで大変なのが分かっていたので敢えてそれ以外で。
夫は出掛けて留守だったので、思う存分話せると思ったのだ。

夕方になり、ようやく返信ライン。
N恵から電話が来た。


「久しぶり。元気だった?」


「うん、まあね。あー疲れた。仕事始めてさ。」


「知ってる。お母さんから聞いた。」


「しんどいよ。送迎が二か所になったぶん、大変なのよ。まだ二人で保育園の方が楽だったけどさ。それに、ちょっとの間でも専業味わうと駄目だね。すっかり怠け癖がついちゃって。」



 チクっと嫌味を言われたような気がしたが、ネガティブな私の悪い癖だ。別に、私に向けての言葉ではない。

話題がこちらに向かないよう、仕事の話に戻す。


「どの辺で働いてるの?家から近いの?」

「まぁね、家からは近い。近いところ選んだよ。でも朝は早いし夕方からが大変で。むしろ、お迎えからが地獄。」


動画内容をそっくりそのまま聞いているようだ。


「時給は?」


「2000円ちょっとかな。でも、少ないよ。正社員じゃないのはやっぱり痛いね。」


「やっぱり薬剤師ってすごいんだね。」


「まあ、高い学費払った分、それくらいはね。」



 伯母も看護師という資格持ちなので、それを見て育ったN恵は意識が高い。女だからとか云々の前に、子どもの頃から「経済的自立心」を育てられたのだ。

育った環境ー、働く親の背中を見て育って来たーそして今があるのだろう。
私のように、あやふやな中で生きていないのだ。





自営業の妻という肩書

「で?芝生はどうなの?」

ーまだ、仕事探し中・・

 なんて言ったら、彼女の呆れたリアクションが浮かぶ。
いや、もしも私が彼女の立場だとしたら、必死で子育てしながら働いている中、私のような愚図な人間に苛々が募るだろう。

「今は家業が忙しいから。そっち手伝いながら、パート探しているんだよね。」


 ふらふらいまだにパート探しーなんて彼女の前では悠長に言えない気がした。
なので、夫の仕事を手伝う自営の妻という隠れ蓑を使った。

「あー、自営の妻だもんね。色々苦労多そうだよね。叔母さんも心配してたよ。旦那さんが何してるのかも考えてるのかも分からないって。」

 実母がN恵達にまで旦那の悪口を言っているところを想像し、うんざりした。
そしてそれを包み隠さず伝えるN恵にも、なんだか腹が立つ。

「まあね。全部自分達でやらないとならないから大変だよ。」


扶養の壁も無関係

「でも、なんでパートと掛け持つの?自営だけじゃ食べていけないの?」


 N恵の遠慮のない物言いに、こちらも火がついてしまう。
普段、弱気で臆病な私なのに、こういう時は母の血が流れていることを感じるのだ。無駄に負けず嫌いという性格。


「いや、ずっと旦那と一緒だと息が詰まるでしょう。一応、パートさんも雇ってるし。私は時々顔出して、大変な時に手伝うスタンスだよ。」


 説明しながら、吉田さんのことを「パートさん」と呼んだことでどこか気持ちがスッキリする。少しだけ自分が優位に立ったような、そんな感じ。本当にアホらしいけれど。


「いいじゃん、いいじゃん。自営から扶養の壁とか考えなくていいしね。上限考えずガンガン働けるじゃん!」


ーガンガンは働くのはまだ先になりそうだけれど。でも、そうだよな。そうならないとな。


 最初はN恵の物言いに苛々させられていたけれど、段々、闘志のようなものが湧いて来た。
自営を手伝いながら、外でも働く。
それくらい頑張るべきではないか。
電話を切り、これまで遠ざけていた派遣も視野に入れることにした。






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