「おい、なんか食いに外出るか。久しぶりに!」
意気揚々と、夫が私と子に向かい声を掛けた休日の昼下がり。
私は食事作りから解放される嬉しさ、それに合わせての家族団欒にウキウキした気持ちだったのだけれど。どうやら子は違ったらしい。
「どこのファミレス?」
駅前だと答えると、眉間にしわを寄せる。少し考えるそぶりをした後、
「私はいいや。二人で行って来て。なんかテイクアウト買って来て。」
夫は途端にご機嫌斜め。嫌がる子に詰め寄る。
「ファミレスが嫌なのか?」
「違う。近場が嫌なだけ。」
「なんで?」
「・・・」
春休みのファミレスは卒業生だらけ
子の精一杯の反発に、私はピンと来た。
見られたくないのだと。
正確に言えば、「親と一緒にファミレスでご飯を食べているところ」を知り合いに見られるのが嫌なのだ。
一足早く春休みを迎えた卒業生でごったがえすファミレス。そこには、中学生だけではない。小学校や高校を卒業したばかりの学生達のたまり場になっている。
受験から解放され、新生活までの限られた自由な時間。気の置ける友人らと楽しく過ごすもってこいの場。
カラオケやボーリングなどもあるけれど、ファミレスはなんていったって安上がり。
たった1杯のドリンクバーで長時間仲間と過ごすことが出来るのだから。
子どもの気持ちを慮る
夫の機嫌も悪くなるし、だからといって子も自分を曲げようとしない。
2人共、衝突すればどちらも引かない。だから私が間に入るしかない。
「フライパンがもう駄目になっちゃって。買いに行きたいんだけど。」
嘘ではない。テフロン加工がもう効かなくなっており、目玉焼きもうまく剝れない状態なのだ。そろそろ替え時だと思っていた。
夫に伝えると、あっさり隣町のファミレスに行こうとなり、それならばーと子も行くと言い出した。
そんな時期なのだ。
親と一緒のところを友達に目撃される。そして、食事に集中することも出来ない。
いつ誰が店内に入って来るかー、すごく仲の良い友達ならまだしも、顔見知り程度のクラスメイトだとただただ気まずい。そんなところだろう。
陰と陽の気質を持つ子
こんな時、やはり私の子なのだなと実感する。
夫は、なぜ子がそんなに近場のファミレスに行くのを嫌がるのか、きっと理解出来ないに違いない。
私も思春期の頃、親が買い物に行くのに荷物が多いから付き合えと言われ、渋々付いて行った矢先に同級生がフードコートで楽しそうに飲み食いしているのを目にし、さっと親から離れたこともあるし、今ですらママ知り合いに会えばーしかも相手が複数で楽しそうにスーパーの前で話し込んでいるのを目にすれば、いったん自宅に戻り、一呼吸おいてから再度買い物に出掛けるのだ。
だから、分かる。
子の気持ちは手に取るように。
かつての私達
夫の運転する車で隣町のファミレスへ。
夫はステーキセット、子は安定の目玉焼きハンバーグ、そして私はたらこパスタを注文。
夫と子はドリンクバーとデザートも頼んでいた。
やはりここでも子と同じ世代かと思われるグループがあちこちに。
子も、チラチラ視線を送りつつも、まったくの見知らぬ他人だからか、私達と一緒のテーブルで食事をとることについては嫌がる素振りを見せなかった。
隣のテーブルには、私達と同じ家族構成の家族が食事をとっていた。
両親と女の子、3人家族だ。
ただ、我が家と違うのは、女の子の目の前にはお子様ランチが置かれていたということ。
「ケチャップ、かける?」
「お口の横、ついてるよ。」
そんな声掛けをしながら父親がナプキンを女の子の口に充てると、必死で口をもごもごさせながらも、ドリンクバーのお代わりをしたいと言い出したり。
その健やかな賑やかさが眩しく、私達には到底もう手に入らない遠い過去の思い出で、戻りたくても戻れない世界で、なんだか尊く思えた。