試用期間終了前面談

窓 仕事
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 朝礼の後、リーダーから直接声を掛けられた。

「10時になったら、ミーティングルームに来て下さい。」

 とうとうその日がやって来た。
バッグに忍ばせてある退職願をノートの挟み、ドアをノック。


「どうぞ。」


 ドアを開けると、リーダーの他に人事部長がいた。
それだけで委縮してしまう。
席に着くと、まずはリーダーが口火を切った。


「3か月、お疲れさまでした。どうですか?仕事は慣れましたか?」


 はい、と言う代わりにノートに挟んであった退職願を差し出した。
これにはリーダーだけではなく人事部長も驚いた声を上げた。


「え?どうして?」


「全然、仕事が出来ない3か月でした。頼まれた作業も分からないことが殆どで、この先もやっていく自信が持てなくて。このままだとご迷惑をお掛けするだけになるので、辞めさせて下さい。」


 しばらく沈黙が続いた。
ふーっと人事部長がため息をついた後、


「この業界の仕事はですね、そんな急に出来るようになるものではないです。でもね、ある時、急に何もかも手に取るように分かる時が来るんですよ。階段のようなものです。登れない高い壁だと思っていたそれが、突然、何かの拍子に上がれるようになって。視界も開けて。みんな、そうですよ。」


「仕事、難しかったですか?」


 穏やかな表情でリーダーが尋ねる。
私は、涙ぐむのを必死に隠すように、早口で答える。


「はい。何もかも初めてで。まず、作業を指示されてそれを理解するのに時間が掛かるんです。ようやく理解したとして実際の作業も更に時間が掛かります。期限もあるので焦ってミスもします。それに、なんとか覚えた作業でも、また新しい作業を依頼されればそちらに掛かり切りになり、すっかり前に教わったことを忘れてしまうんです。振り出しに戻ってしまいます。」


「小川の教え方は、分かり辛かったですか?」


「いえ!小川さんはとっても良くして下さいました。ご自身の仕事もあるのに、私に寄り添って色々と教えてくれて・・なのにそれに応えることが出来なくて。それも、申し訳なくて。」


 しばらく沈黙が続いた。
リーダーと部長が顔を見合わせる。


「芝生さん。もうちょっと頑張ってみましょうよ。うちもね、アルバイトを雇用するのは初めてだったので色々と不足するところがあったかと思います。仕事の振り方を始めとして、やり方がね、ちょっと間違えていたかもしれない。そういう部分も含めて試行錯誤中なんです。芝生さんにとってもう少しやりやすいようにこちらも配慮しますから、この件は踏み止まっていただきたい。」


 部長は、そう言いながら私が渡した退職願をこちらに差し出した。
涙はギリギリの線でこぼさずに済んだ。
まさか、引き留められるなんて思わなかったから驚いた。と、同時に、この人達はそれくらい私の無能っぷりに気付いていないのだな、と失望もした。

 結局のところ、何も解決はしていない。
ただ、こちらが限界だということは上に伝わった。
これで状況が改善するかどうかー、振られる作業が軽くなれば私の意見が通ったということになる。
でなければ、また退職の意を伝えるのみ。

ヨレヨレになった退職届ー、今度はデスクの奥にしまい込んだ。







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