壁の苔

ネオン街 仕事
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 忘年会が終わった。
やっぱり、行くんじゃなかった。
まったく楽しめなかった。
くじで決められた席は、最悪なことに話したこともない社員が両隣。しかも、男性。
共通の話題が無い。
せめて仕事に精通していたのなら、飲み会で仕事の話はタブーであっても、何かしら話題の糸口はつかめたかもしれないのに。
頼みの綱の小川さんは、背中合わせのテーブル。
最初の乾杯こそ、同テーブルの彼らは私に気を遣ってか、ビールを注いでくれたりもしたのだけれど。
仕事は慣れたか?を聞くにはもう遅すぎる半年が経ち、むしろ、派遣さんがいるテーブルの方が彼女を中心に盛り上がっているように感じた。
派遣さんは、なぜかリーダーの隣に座っており、まるで社員のように場に馴染んでみえた。
決してでしゃばる訳でもなく、振られれば話す程度であっても、その動じなさと落ち着きがもうまるで十年以上ここにいるかのようなベテラン感で眩しい。

一方、私のテーブルは野球の話で盛り上がっていた。大谷のグローブ寄付から始まり、そこはなんとか私も愛想笑いしつつついていけたけれど、熱狂的なカープファンとタイガースファンの2人が大盛り上がり。
選手の名前も誰一人分からない私はまったく付いて行くことが出来ず、


「芝生さんは、どこのファンっすか?」


 若手の男性社員に聞かれたけれど、


「ごめんなさい、野球、見ないのでよく知らなくて・・」


 場を白けさせてしまった。
最初こそ注がれたビールだけれど、もうこの場にいるのが辛くなって空になった自身のグラスに手酌で注ぐ。
皆、話に夢中で私のそんな行動に目を留めることが無かったのがせめてもの救い。
気付けば、私はビール瓶を一人で3本空けており、隣の男性にも途中何度か注いだ気もするけれど、ほぼ私が飲んだのも同然。
もうアラフィフの私は、壁の花になれるでもない壁の苔。


「二次会、行く人ー!!」



 皆、職場では見せない感じにノリノリで、若い会社だからなのかそのギャップに戸惑う。
中山さんも、いつものねちっこい感じは消えて、豪快に酒を飲み後輩と肩を組んで踊る勢い。
私はそんな彼らから少し離れたところで会計をする小川さんに声を掛けた。


「すみません、家のことがあるので二次会は欠席します。」


「あ、そうなんですね、分かりました。」


「いくらですか?」


「あ、パートさんはいいです。大丈夫です、お疲れさまでした。」


 バッグから出した財布の行き場を失い、なんだか居たたまれなくなる。
彼女の口から出た、「パートさん」という言葉に、もしかしたら私がいないところで皆からそう呼ばれているのかもしれないとなぜか悲しい気持ちになった。


「お疲れ様です!」

「よいお年を!!」


 すっかり酔っ払った彼らはそれでも感じよく、途中で抜ける私に挨拶をしてくれた。
悪い人達じゃない、常識のある良い人達だ。
それなのに、私は何をこれ以上求めるのか。
結局、自分の無能さが自分を苦しめているに他ならない。


あんなに飲んだはずなのに、ついコンビニに寄ってサワーを1本買った。
新橋のネオン街を眺めながら、缶チューハイ片手に歩く。
久しぶりにストゼロ。9%が体に悪いのは百も承知だけれど、脳みそをぐにゃぐにゃにして何もかもポジティブにしてくれるそれは、ひとりぼっちの忘年会にふさわしいアイテムといえる。


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隣の芝生
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