お盆休み

湯飲み茶わん 家族
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 お盆休みもあっという間。
子が高校生になった今、家族で旅行するわけでもなく、プールや海へ行くわけでもない我が家。
それでも、パートをしている私にとってこのお盆休みはとても貴重で、しっかり頭も心も体も休ませる特別な期間だったように思う。
夫は、ツーリング仲間とバーベキューやゴルフへ行ったり、また大学時代の友人らと飲み会だったりと忙しく、日中はそれでも事務所で仕事をしたりもしていたので、フル活動といった感じ。
子も、高校で出来た友達と街やプールやお祭り、それに中学時代のテニス部の友達と久しぶりに遊んだりと夏を満喫している。
家族ではなくそれぞれが単体で動いた夏休み。
私は、夫も子も出掛けて暇な一日、会う友達もいなく時間を持て余していたので実家へ行くことにした。
今年の盆は、義実家へは顔を出さなかったけれど、実家はそうもいかない。



 実家のドアを開けると、よぼよぼと母が出て来た。
足を引き摺っている。


「大変だったのよ。階段でひねっちゃって。」


 顔を合わすなり、大変アピールをする母にうんざりしつつも、手土産を渡す。
母の好物、水ようかんだ。勿論、デパ地下の某有名菓子店のもの。


「あら、ありがとう。今日は花子は?」


「友達と遊びに行ってる。」



「そうなの、高校生は忙しいわね。」


 割と孫に淡白な母は、子が来なかったことについては何も思うことはないようで、早速、最近の彼女の身の回りに起きた小さな世界の愚痴を吐き出した。
弟は留守、またパチンコだろう。それについては触れないようにした。
父は、起きているのか寝ているのか、相変わらず横に倒せるソファーの上でうたた寝をしている。
本当に、よく寝るようになった。
そんな私の心を読んだように、母が言う。


「あの人、ずっと寝てるわよ。本当、生きてるんだかどうだか。寝て食べて出して、その繰り返し。話し掛けても反応が薄いし、病気は仕方がないけどもうちょっと動かないと本当の寝たきりになるわよ。そうなったら、あんたよろしくね。あんたの父親なんだから。私は知らないから。」

渡した水ようかんを口にしながら、一通り言いたいことを言った母は、大きなため息をついた。


「そうそう、N恵と姉さん、北海道行ったらしいわよ。この暑いのによく旅行なんて行く気になるわね。でも、N恵の旦那が子どもを見てるっていうんだから大したもんよ。」


「え?子ども達はどこにいるの?」


「旦那が家で見てるのよ。2人で北海道だって。疲れそうだわ。私ならもっと近場がいいわね。」



 これは、催促だろうか?
また母の顔色を伺ってしまうのだ。




「まあ、どこに行くでも、旦那が協力的だと違うわよね。女は結婚相手で決まるっていうけどさ。娘の結婚相手でも人生変わるわよね。」



 まただ。
私の結婚を否定するような発言が始まると、長い。
今の自分の気に入らない人生は、娘のせいなのだと言いたい。


「あんたも、花子の結婚には気を付けなさいよ。私のようにならないようにね。どんな婿が来るかによっても人生変わるんだからね。」



 苛々ともやもや。貴重な夏休み。来なければ良かったと心底思う。
私だって思う。
夫がもっとこうだったらーだとか、こうして欲しいーだとか。
だがそれは、すべて自分が選択して来た結果だし、また相手からすれば私だって欠点だらけでもっとこうだったらという要望はあるはず。
お互い様なのだ。


他力本願ーこの言葉が大嫌い。
私自身もそうだったけれど、それが嫌だから変わろうと努力している最中で。
だからこそ、母のこういった発言に心底うんざりしてしまう。


「ごめんだけど、もう帰る。」


「え?」


「夕方から、ちょっと予定があるの。友達と飲み会。」


「あぁ、そうなの。いいわね呑気で。」



本当はそんな約束なんてないけれど、散々嫌味を言われたらこっちだって意地悪を言いたくなる。


「お母さんも、たまには友達とご飯でも行ったら?」


「あんたみたいに呑気でいられないの。私は縛られてるから。誰がこの家のことやるのよ。」


父を指す。まるで赤ちゃん扱いではないか。父がいるから外に出られない、自由ではいられない。行き場所が無い自分を正当化する為の材料なのだ。


あと何回、実家に顔を出して父や母と会い、話すのか。
そのどれもが毎回こうだと、足も遠のいてしまう。
何を言われても響かない、そんなスルー力を身に付けたい。







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