パワハラとか、いじめとか、そういった境界線はどこにあるのだろう。
被害を受けたと感じたら、それは客観的にみたら大したことじゃなくてもそうなるのだろうか。
私は気が弱いから、そんな目に合ったところで訴えることも出来ないし、泣き寝入りをするかその環境から黙って身を引くことでしか自分を守れない。
トイレで泣いた。
情けないくらいに、泣いた。
自分の不甲斐なさ、どう頑張っても頑張っても出来ない。
他の人が10分もあればこなせる仕事なのに、午前中いっぱい使ってしまう。
何度やってもやっても求められる数字が出せない。
退社時刻が5分前に迫り、もう駄目だと諦め、中山さんに声を掛けた。
「すみません、どうしても数字が合わなくて。何度やっても、こうなります。」
「なんでそうなるんですかね。落ち着いてやって下さいよ。」
共有フォルダ内にある、私が取り組んでいた作業をチェックする。
ものの数秒で彼はその間違いに気付く。
「これ、ここがこうだとそりゃあ合わないですよ。」
中山さんのため息。
彼にとっては超絶簡単な作業なのだろう。むしろ、なぜこんなに時間がかかるうえにミスをするのか本当に分からないといった風に、
「もういいです。明日からはこっちやって下さい。」
ただひたすらコピペする作業を与えられた。
内心、ほっとしたけれど、この作業が果たして意味があるのか分からない。
どういった業務に使うものなのかの説明もなく、ただただコピペなのだ。
そして、2日目になると、私の悪い癖が出始める。
単純作業だからか、集中力が切れるのだ。誰とも会話をせずに、ひたすらコピペ。
時計の針はなかなか進まない。
あの、数字が合わない!と焦っていた時間の流れ方とは雲泥の差。
だんだん視界がぼやけて来る。そして、どこまでコピーしたのか、貼り付けたのか分からなくなる。
また、コピーしたつもりが切り取ってしまったり、それで修正が効かずあたふたしたり。
作業が終われば、コピー元のシートを削除していく。
「あ!」
削除してしまった。
間違えて、削除してはいけないシートを削除してしまった。
昼の退社時刻、中山さんはさっさと社食へ後輩達と出てしまった。
私は、ぼーっとした頭でそのままPCをシャットダウンし、帰って来た。
報告を怠ったのだ。
今日はパート休みだから、シートの復元方法を調べている。
そして、保存してしまった状態だと厳しいことを知る。
やってしまったあの瞬間、中山さんに助けを求めていれば、回避出来た問題だ。
私が不在の間、誰もあのファイルを開かないことを祈るのみだ。