情報処理能力

ホワイトボード 仕事
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 今日のパートは本当に訳が分からず、何度も何度も小川さんに繰り返し説明を受けて、それでも理解出来なかった。
私と派遣さん、それに新人君が小川さんに呼ばれ、専用部屋へ移動した。
そこで、いつもとは違う特殊なPCが置かれているデスクにそれぞれが座る。
流れでなんとなく私が真ん中に座ることになり、なんだか落ち着かなかった。
同じ作業を、派遣さんと新人君もやるとのことで、3人一緒に説明を受けた。
私の悪い癖で、2人が気になり集中出来なかったのと無駄に焦ってしまう。
比べるでもなく、この3人の中で私が一番出来ないのは分かっていても、なんとか必死についていかなくてはという勝手なプレッシャーが更に状況を悪化させた。

 ホワイトボードを使い説明をする小川さんに、両隣の2人は頷きながらPC操作をサクサク進める。
一方私はというと、彼女の言葉がすんなり頭に入って来ない。
何を言っているのか、それぞれ単語は理解出来たとしても、それが一つの文になるともう自分が異国の地にいるかのように、意味ある文章として届かなくなってしまう。
何回かは、勇気を出して小川さんに質問をし、個別に教えて貰いながら操作をしたけれど、それが頻繁に続くと、彼女も説明がなかなか進まなくなるので、両隣の2人にも迷惑を掛ける。
なので、分かったフリというか、分からないけれど何とかなると自分に言い聞かせ、つい流してしまう。


「じゃあ、そんな流れでお昼までお願いします。芝生さん、大丈夫ですか?」


「あ・・はい。大丈夫です。」


 つい、そう答えてしまった。本当は全然大丈夫なんかじゃないのに。
小川さんは、安心したように微笑むと部屋から出てしまい、3人だけ取り残された。
分からないながらもメモは取っていたので、それを見ながら四苦八苦するけれど、やっぱり頭が混乱して分からない。
新人君は、独り言なのか、ぶつぶつ言いながらもなんとか作業を進めているようだ。
派遣さんは、無言でいつも自分のデスクで仕事をしているのと変わらない風にこなしている。


ー分からない、もう30分も経ってしまった。どうしよう、焦る。派遣さんに聞く?でも、一度も会話らしい会話をしたことがないし、なんだかとっつきにくい。


 突然、彼女が席を立ち部屋を出て行った。トイレだろうか。
しんーと静まり返っていた部屋で初めて「動」があったことにドキッとしてしまう。


「あ~、どうなってるんだよこれ。はぁ・・」


 新人君が大きな独り言とため息の後で、


「あ、すみません。」


 私に向かって声を出したことを謝って来たのをチャンスと思い、思い切って話し掛けた。


「私、本当に全然分からなくて。小川さんの説明がさっぱりで。まだ、ここまでしか出来てないんです。ちょっと教えて貰えませんか?」


 もう、藁にも縋るとはこういうことを言うのだろう。新人君は一瞬驚いた顔をしながらも、私のPC画面を覗き込んでくれた。


「あ、これは・・こ、こんな感じでやれば・・」


 たどたどしくも、私のマウスを操作しながら説明してくれる。正直、彼も何を言っているのか分からなかったけれど、それでもものの数分で私が躓いていた部分を作成し、間違えていた部分を修正もしてくれた。


「こ、ここからは・・こんな感じで・・こうやってこうすれば。あとは繰り返すだけなんで。」


「ありがとうございます!!」


 つい、涙ぐんでしまいそれを見た彼は見てみないふりをしてくれた。
派遣さんが戻り、私もゆっくりだが昼までに作業を終えた。
ほぼ新人君が難しい設定等をしてくれたお陰だ。その設定を踏まえてようやく単純作業に入り、その部分だけを切り取れば何とか私にでも出来る作業だった。
ただ、そこに至るまでが小川さんが私達にやって欲しい仕事なのだろう。


「本当にありがとうございました!!」


 昼になり、改めて新人君にお礼を言った。彼は照れくさそうにしながら、私に向かって頭を下げ社員食堂へと消えて行った。
やっぱり私には無理。
到底無理。

今日は運良くうまくいったけれど、逆に、これくらいなら芝生さんでも出来ると小川さんに思われたのだとしたら、自分の首をまた締めていることになる。
正直に伝えよう。ほぼ新人君に手伝って貰って作業をした事実をメールにし、小川さんに送信してから退社した。


 劣等感はこれまでも持ち続けてきたけれど、それに加えての罪悪感。
ホワイトな職場、指導してくれる人は優しい。要するに、私自身の問題。
能力が追い付かない、それが辛い。







 


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隣の芝生
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