事務パートで、女子トイレへ行く通路の途中に喫煙スペースがある。
そこを通ることが、最近は憂鬱だ。
新しい部長はヘビースモーカーで、しょっちゅう部下を引き連れたむろしているのだ。
勿論、業務中はじっとりとした視線で私達パートの仕事までチェックしている感じなのだが。
そんな折、どうしても我慢出来ず、トイレに立った。
いつもは午前3時間程度、退社までトイレに一度も行かずに済むこともあるのだけれど、どうも我慢が出来なかった。腹が鳴りまくって恥ずかしく、それを抑えようと持って来たコーヒーをがぶがぶ飲んだせいだろうか。
すっきりして女子トイレから出ると、喫煙スペースに部長が一人。
嫌だなと思いながらも、軽く会釈だけしてそこを通り過ぎようとした、そのタイミングで彼がそこから出て私のすぐ目の前に。
うわっと思い、歩く速度を緩める。追い越すのも失礼な気がするし、だからといって横並びになるのも違う気がする。
だが、そろそろ背後を歩き、声も掛けないのも感じが悪いかもーと思い、後方から挨拶でもした方がいいか迷い、しかしどうしても勇気が出ず、結局また踵を返して女子トイレに戻ることにした。
「あなた、パートさん?」
後ろから太く威圧的な声。
体全体がビクっとなり、固まりつつゆっくりと振り返った。
「お疲れ様。」
えがお。
笑顔ではなく、えがお。目の奥はまったく笑っていない、えがお。
「お疲れ様です・・」
私の頭のてっぺんからつま先までじろっと見回し、何か言いたげな意地悪そうな顔。
「あなたの名前だけ、分からないんだよね。他のパートさんは挨拶に来てくれたけど。」
え・・
しまった、そういうことか。というか、いつ?どのタイミングで?花山さんと黒川さんが、私の知らないところで常識ある行動をしていたことにショックを受けた。なんていうか、出し抜かれたーそんな気さえした。
確かに、社員のことは何となく分かっているのだろうし一人一人自己紹介なんてなかったけれど、パートの私達が認知されている訳がない。
だが、部長レベルでパートで働く私達の存在なんて、むしろタイミーさん的な、パートひとくくりでわざわざ自己紹介などは必要ないだろうと勝手に思っていた。
そうか、違ったのか。
「も、申し訳ありません・・芝生と申します。午前だけのシフトで勤務させてもらっています。ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。至らないところがあるかと思いますが、よろしくお願いします!」
「ふうん。そう。よろしくお願いします。」
泣きそうになりながら必死に挨拶をしたことで、私に掛けていた圧を、ほんの少しだけ緩めてくれたような気がした。ずっしずっしと左右に体を揺らしながら歩く大きな後ろ姿を眺めながら、既視感を覚えた。なんだろうこれは・・あ!
朝青龍だ、彼に似てる。
なんだか名前を覚えられてしまったことが落ち着かない。もう逃げられないような、大きな罠に嵌って動けなくなったような、とてつもなく不自由な気分だ。
無礼者
仕事