ギャップ趣味

キックボクシング わたし
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 パート先で、久しぶりに花山さんに誘われ、迷いに迷い、仕事終わりにランチ参加。
今日の時給が飛ぶなと思いつつ、だがこれもここでやっていく処世術だと思う。
米田さんや木佐貫さんもおり、話題はやはり新部長の悪口から。
米田さんは、相変わらず私の目を見を見ることはないし、木佐貫さんも然り。誘って来たのは花山さんだけだったし、むしろなんであんたもいるの?的な空気を感じた時は既に店の席に着席してドリンクが運ばれて来る頃だった。
空気と化しつつ、誰かが発言すれば愛想笑いで頬の筋肉が疲れる。ちっとも楽しくないのに、気を遣うだけのランチ。うっかり参加してしまった自分を責める。少しでも、彼女らとの仲が改善するかもーなんて甘い期待はすぐに外れた。

「えー、米田さん、野球観るんですかぁ?」

「うん、むしろ野球しか観ない。旦那もね。だからサッカーとか他のスポーツはあんまよく分からないんだよね。息子もサッカーやりたがってたけど、旦那が野球チーム入れたから、休みの日は送迎や応援で大変。」


 そう言いつつ、自分の趣味の延長での手伝いに充実感を得ているようだ。
木佐貫さんは、子育てと仕事の両立が大変だと言いつつ、韓国男性アイドルグループの推し活にはまっているらしい。私以外の皆、そのグループを知っており、グループ名にピンとも来ない私はまた会話から外れてしまう。よくよく見ると、木佐貫さんはそのグループの推し色グッズをバッグに付けており、そういえば推しカラーなのか、デスク回りも華やかにしていたのを思い出す。

「私、あんまり推しとか興味ないんですよね~、そのお金は自分に投資したくって。」

 花山さんは、もっぱら美容。整形するくらいだからその界隈に詳しい。米田さんがしみ取りを最近皮膚科でしたらしく、だがあんまり効果が無いとこぼしたら、彼女お勧めのクリニックやら美容液やらを勧めて盛り上がる。ここでも私は会話に参加出来ず。

 始終、私と同様にあまり会話に参加していないように見えた黒川さんに勝手に仲間意識を持っていたが、私と違い、心から楽しそうににこにことしており、更に米田さんは彼女を気に入っているのであれこれ話し掛けた。2人ランチもよく行っているから、普通に同棲している恋人との近況を尋ねたり。プライベートなことを語るのが嫌そうに見えた彼女はそうでもなく、案外、フランクに私達の前でも最近のお悩み相談をしたりする。すると、彼がマッチョなことが判明し、その流れで彼女がプロレスファンだということも知った。米田さんは既にそのことも知っているようだ。

「キックボクシング、ストレス解消にいいですよ。」

 彼女の外見にそぐわない趣味。なのになんだかお洒落で恰好良い。
ようやくパスタが運ばれて来て、頬の筋肉を緩め、本来使うべき目的に口を動かす。あぁ、疲れたー

「芝生さんは、なんか趣味とかあるの?」

 突然、花山さんから質問を受け、口の中に放り込んだパスタを飲み込むタイミングを誤りむせ返る。そんなお見合いのようなシチュエーションに、だがそれまで空気だった私が一斉に皆の視線を浴びるものだから、口をもごもごさせつつ頭は真っ白。

「趣味?」

「なんかはまってることとかあるのかなって。」


 何か答えなくてはー場を白けさせてはならない。どうしよう、どうしよう。だが何も浮かばない。スポーツって感じじゃないし、だが普通にテレビドラマを観ること、携帯漫画を読むことだなんて答えたら、ほらやっぱりって微妙過ぎる空気が流れるうえ、私だけがなんだか気まずくなり自己肯定感もだだ下がる。

「お菓子作り・・とか。」

「へぇ!どんなの作るの?」

「ホットケーキミックスで、レシピ動画観て、パウンドケーキとか・・」


 なんか間違えた?
皆、微妙なリアクション・・・というか、花山さんは質問をしておいてすぐに興味を失ったかのように、黒川さんにキックボクシングって一か月やったらどれくらい痩せる?~なんて聞く。
米田さんや木佐貫さんは、プロレス観戦に一度行ってみたいとかなんとか。
話題は一気に黒川さんに集中した。私はその盛り上がりを横目にパスタを啜る。1300円のパスタのすっかり冷めた温度にげんなり。

 そうか、ギャップか。
黒川さんの、いっけんクールで大人しそうな、だが知的な雰囲気とのギャップ。米田さんとランチに行かない日にはデスクでおにぎり片手に文庫本を読んでいたりもする。同じく読書好きな男性社員と最近では本の貸し借りまでしているのを目にした。かと思えば、喫煙所で煙草をふかして物思いにふけっている時も。それに加えてプロレスにキックボクシングにマッチョな彼氏。なんだか人間としての奥行を感じる。

 見た目とイコールの趣味は、それだけで自己紹介を完結させてしまう。自分の見立てと一致しないところで、もっと知りたいという人間本来の欲求が生まれる。

「お疲れさまでした。」

 次にランチに誘われたら、断ろう。
私は人に興味を持たれない価値のない人間かもしれないけれど、自分自身に興味があればそれでいい。そう強がることにした。






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