仕事が決まった。
もうてっきり不採用だと思っていたので、携帯着信も非通知だったことから不愛想に出てしまった。
聞き覚えのある社名を耳にした途端、心臓がボールのように弾んで飛び出すのではないかと思ったくらい。
とにかく、人事担当者に何度も何度も「ありがとうございます!!」を連発していた。
すぐに、入社の為の書類手続き等の説明があり、今週に会社に出向く。
あのお洒落なビルーテンションが上がる。
嬉しくて嬉しくて、こんな私でも受け入れてくれるところがあるなんて!!!
なんの資格も特技も学歴も職歴も持たないアラフィフ引きこもりおばさんなのに、見込んでくれる会社があるなんて!
早速、夫に報告。
喜んでくれるかと思ったのに、薄い反応。
「で?いつから働くの?」
「来週からかな。」
「ちょっとそれ、ずらせないの?せめて来月半ばからにしてくれない?ちあきさんもいなくなるタイミングで事務所どうすんのよ。」
夫は深い溜息をついて、やれやれと首を振る。
折角妻が念願の仕事を手に入れたというのに、自分の事務所のことしか頭にないのだ。
「ほんとに勝手だよな、なんでこのタイミングで応募したの?今じゃなくてよくない!?訳分からんよ。」
「ごめんなさい。でも、私もまさか決まるなんて思ってなくて。」
「そういうところだよ。普通、先を読んで行動を起こすだろう?あなたは昔から後先考えないところあるから。思い付きで行動して成功した試しがないだろう?」
「でも、あなたが早く仕事決めろってー」
「は!?それはもう何か月も前の話だろう?あの頃にもっと動いて決めてたら俺だってちあきさんの代わりに短期バイトを雇うなりなんなり考えたよ。あなたずっと仕事もせずプラプラと暇そうにしてたじゃん!やることないならこっち手伝ってってなるだろう?なのにー。そういう周りのことを考えられないところが駄目だって言ってるんだよ。どこでだって、そんな意識じゃ通用する訳ない。」
「でもー」
「もういい!明日から来なくていいよ。こっちは何とかするから。」
ーったく、役に立たないなー
ボソッと苛つきながらつぶやく夫の声。
そんなに悪いことをしたのか?
そりゃあタイミングは悪かったかもしれないけれど、少しはこの喜びを共有してくれたっていいのに。
自己中なのはそっちじゃないのか?
そもそも、吉田さん都合で急に代打を頼まれて、しかも嫌な感じで中途半端に引き継がれてー
給与だって出る訳じゃないのだ。
私にとってはなんのメリットもない。
勿論、自営の妻としての責任感には欠けるかもしれないけれど。
色々なことが頭を回り、モヤモヤしたり反省して落ち込んだりするけれど、それでも採用の事実の悦びの方が上回る。
夢のオフィスワーク、何の取り柄もない私が手に入れられた。
もうそちらを全力で頑張りたいという気持ちが大き過ぎて、夫の小言やため息なんてどこか遠い異国の地で起きていることのようにさえ思えた。